私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
この曲は―――白鳥はもうレクイエムじゃない。
音が変わったのはわたしのせい?
梶井さんが弾く姿を食い入るように見た。
視線が重なる。
くすりと梶井さんが笑ったような気がした。
どうして?笑うの?
ドレス似合ってなかったとか?
やっぱり私には大人すぎたなとか思ってるんじゃない?
そんなことを考えているうちに白鳥が終わってしまった。

「次の曲はファリャの火祭りの踊りですって」

「新しい曲ね」

ファンの間からそんな声が聞こえてきた。
梶井さんが立ち上がり、客席を見下ろした。
今からなにが始まるのだろうと観客の視線が梶井さんに集まった。

「一緒に弾きたい人がいて、この曲を選びました」

ざわっと客席がざわめいた。
え、嘘……これってまさか。
『死ぬ気で練習しておけよ』
確かにそう言っていたけど―――

「望未、こいよ」

まさか舞台でなんて思ってなかった。
でも、あなたが私の名前を呼ぶ声に私は逆らえない。
その声は魔術みたいに私をからめとり、操る。
緊張感より、高揚感。
私の名前をもっと呼んで。
その声で。
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