私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

July 第31話 あなたの香りを残して

コンサートが終わり、梶井さんに楽屋で待つように言われ、楽屋に入った。

「わー……」

さすが梶井さんは人気がある。
梶井さんは大きな花束をいくつももらっていて、楽屋には差し入れやプレゼントが山のように積まれていた。
運び込まれるプレゼントと花束、忙しそうにするスタッフさん達の中で一人座っているのも気まずかった。
そこにいるのもなんだか居心地が悪く感じて、裏口からそっと出て夏の夜風にあたっていた。
不思議だと思う。
春にやったコンサートと同じ場所なのに私と梶井さんの関係はまったく違っていた。
こんな深紅のドレスと靴、アクセサリーやバッグまで買ってもらって、コンサートが終わったら食事に行こうって言われるなんて考えてもみなかった。
ドレスに合わせた赤いネイル。
前の私なら、似合わないって思って、つけたりしなかったのにドレスに合わせたいって思ってつけた。
爪を暗い夜空に掲げて、眺めていると声をかけられた。

「あれー?一人?」

「こんなところでどうしたの?」

酔っぱらいのサラリーマン二人だった。

「いえ、ちょっと人を待っていて……ぶっ!」
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