私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
言い終わる前にばさっと上からジャケットが落ちてきた。

「なにか用か?」

梶井さんの低い声がジャケット越しに聞こえてきた。
ジャケットから顔をのぞかせると、梶井さんの鋭い目が酔っぱらいをにらみつけていた。
まるで、ライオンみたい。
そんな目を向けられたサラリーマン達はぎょっとした顔で身を引いた。
高身長で日本人離れした顔でチェロを弾いているせいか、体つきもどちらかというとがっしりしているから、迫力がある。

「い、いや」

「一人でいるから危ないと思ってさ」

逃げるようにして、二人はいなくなった。

「おい、望未。なにしているんだ。中で待てよ」

「うん……」

「相変わらず、目が離せない危ない奴だな」

「え?」

「春もそうだったろ?薄着して女一人で歩くな。いい大人なんだから気をつけろよ」

梶井さんのその言葉で春のコンサートが終わった時、私に声をかけたのは偶然でも気まぐれでもなかったんだとわかった。

「……もしかして、あの時、私のこと女としてちゃんと見ていてくれたの?」

梶井さんはすっと目を逸らし、ジャケットを私に着せた。

「梶井さん、暑いよ……」

「駐車場まで着てろ」
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