私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
ここが梶井さんにとって、どれだけ苦しい場所なのか、私にはわかった。
「うん……」
サングラスを梶井さんは外し、ポケットにさした。
眩しそうな目をして言った。
「俺がチェリストの道に進むきっかけになったコンクールの日、母さんは死んだ。息を引き取ったその時に俺は賞をもらい、拍手を受けていたってわけだ」
苦々しく言った梶井さんの表情に傷はまだ癒えてないことを知った。
「病院に駆けつけた時にはもう遅くて、一緒に事故にあったはずの母さんの恋人の姿はどこにもなかった。たった一人、母さんは死んだ」
痛みをこらえるような顔をして、私の手を強く握っていた。
きっと自分が引き留めていればとか、なにかできたんじゃないだろうかって、梶井さんは思ってきたのだろう。
でも、それは―――
「梶井さんのせいじゃないよ」
お母さんは寂しい人だったのかもしれない。
梶井さんは自分のコンクールより恋人を選んだお母さんを恨んでいたはずだ。
けれど、それ以上に恋人に捨てられたお母さんの孤独を思って、一人にさせてしまったことに対してずっと罪悪感をもっていたに違いない。
「うん……」
サングラスを梶井さんは外し、ポケットにさした。
眩しそうな目をして言った。
「俺がチェリストの道に進むきっかけになったコンクールの日、母さんは死んだ。息を引き取ったその時に俺は賞をもらい、拍手を受けていたってわけだ」
苦々しく言った梶井さんの表情に傷はまだ癒えてないことを知った。
「病院に駆けつけた時にはもう遅くて、一緒に事故にあったはずの母さんの恋人の姿はどこにもなかった。たった一人、母さんは死んだ」
痛みをこらえるような顔をして、私の手を強く握っていた。
きっと自分が引き留めていればとか、なにかできたんじゃないだろうかって、梶井さんは思ってきたのだろう。
でも、それは―――
「梶井さんのせいじゃないよ」
お母さんは寂しい人だったのかもしれない。
梶井さんは自分のコンクールより恋人を選んだお母さんを恨んでいたはずだ。
けれど、それ以上に恋人に捨てられたお母さんの孤独を思って、一人にさせてしまったことに対してずっと罪悪感をもっていたに違いない。