私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
梶井さんが弾くチェロの音が人をせつなく、悲しくさせていた理由がわかったような気がした。
サンサーンスの白鳥はレクイエムであり、梶井さんの贖罪する気持ちからの曲だった。
それはもう必要ない。

「梶井さんは悪くない」

ぎゅっと梶井さんを抱きしめた。
私は梶井さんにこの言葉を何回だって言ってあげる。
私は生きているから、言ってあげられる。

「悪くないよ、梶井さんは。お母さんは恨んでない。きっと賞をとった梶井さんを誇らしく思ってる」

「そうだといいけどな」

「うん」

梶井さんの声は震えていた。
だけど、『カッコイイ大人の俺』を守りたい梶井さんのために顔は見ないであげた。
その涙に気づかないふりをして、梶井さんの体に抱きついていた。
それなのに―――

「暑い、離れろ」

ぐぐっと頭を押し、体を離された。

「ひ、ひど!慰めてあげてたのに!」

「暑さには勝てない」

気候め!
キッと太陽をにらんだ。
墓の前でいつものように梶井さんが笑った。
そして、私の手をとる。
銀色の指輪がするりとはめられた。

「これ……!」

「言っただろ?買っておくって」

梶井さんは不敵な笑みを浮かべた。

「来年の冬には俺と結婚するんだからな」

忘れるなよ、と言ってサングラスをかけた。
にやけた表情を隠すみたいにして。
忘れるわけないよ。
指にはめられた婚約指輪がある限り忘れるほうが無理なんだから。
暑いと言われるってわかっていたけど、梶井さんの腕にぎゅっとしがみついたのだった。
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