私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
梶井さんは顔を近づけると、唇を重ねた。
別れるのが名残惜しいというように。

「冬までに用意しておけよ」

「うん」

「それから、寂しくなったら言えよ」

帰ってこれないのに?と思ったけど、その言葉を飲み込んだ。
今は私が寂しいって思うより梶井さんのほうが寂しいって思ってくれているような気がした。

「うん、わかったよ」

だから、素直に返事をしておいた。
梶井さんが寂しくなったら、私が会いに行けばいい。
ちょっとしか一緒にいれなくても、会いに行くことはできる。
生きている限り。
笑顔で私は梶井さんと別れた。
前とは違う。
私の左手にはちゃんと約束の印があるのだから―――
< 168 / 174 >

この作品をシェア

pagetop