私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

December 第34話 ここにいるということ

冬のドイツ、それもクリスマスマーケットの時期にまた訪れることになるとは思ってなかった。
前は菜湖(なこ)ちゃんがいてくれたから、心強かったけど、今度は一人で飛行機に乗った。
梶井さんがとってくれたのはビジネスクラスで快適そのもの。
食事は和食をチョイス。
どうしてかっていうと、一度目のドイツ旅行でお米が食べたくなったから、今回は機内食でお米を食べておく作戦だった。
味噌汁と押しずし、卵焼きや魚を焼いたもの、煮物が出てきて、思ったよりもずっと本格的な和食が食べることができた。
エコノミーと違う……。
しかも、アイスクリームとケーキがデザートについてくる。
これは楽勝。
私は飛行機の中まではそう思っていた。
到着するまでは。
迎えに来た梶井さんと感動の抱擁をするはずだったのに―――

「時差ボケか」

「……すみません」

着いたなり、ぐったりとベッドに横たわる羽目になった。
私の想像では(以下、自分の理想)

『梶井さんっ!』

『望未』

『会いたかった』

『俺もだよ』

なんて、空港で抱き合う二人ってなるはずだったのに。
これですよ。
手のかかる奴なんて思ってる?
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