私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
背伸びしてます!ってかんじで頑張ってる自分が悲しくなった。

「楽しみねぇ」

「ドイツまで私、聴きに行ったのよ」

「あら、私も。一度しか行けなかったけど」

そんな会話が聞こえてくる。
うやましい。
一度でも行けたらいいと思う。
私が海外旅行に行ったのは一度だけ。
菜湖(なこ)ちゃんに便乗して一緒にくっついて行った。
自分一人で行く勇気はない。
それにしても海外遠征までしてしまうとは梶井さんファンはベテラン揃いだけある。

「海外で演奏する梶井さんも素敵よね」

「梶井さんのファンなら絶対見逃せないわ」

ファンを名乗るのなら、海外遠征は当たり前だったみたい……
で、でも、私だって一度だけ海外で梶井さんの演奏を聴いたことあるんだから。
オーケストラと演奏するのを―――って、なにを張り合っているんだろう。
それにあれは自分でチケットを買ったんじゃないのに―――梶井さんにとってはあれも気まぐれでなんでもないこと。

「大人の男ってほんとやだ……」

こっちの気持ちも知らないで、簡単に心を奪っていくんだから。
思い出して泣きそうになっていると開演の時間になった。
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