私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
幕があがる―――オーケストラを従えて、登場する梶井さん。
最初の曲はエルガーのチェロ協奏曲。
一瞬だけのシンッとした空気は緊張し、ピンッとはりつめた糸のようだ。
その一瞬の静寂を破るチェロの音。
梶井さんが奏でるチェロの音は自信に満ちているのにどこか切なく悲しく響いた。
母を亡くした彼の苦しみが音にすべて込められているような気がした。
インタビューで読んだことがある。
高校生で母を亡くした梶井さんは思うように弾けなくなり、やめようと思った時期があると。
けれど、そんな自分をかっこいいと言ってくれた人がいるから、また弾けるようになったとも。
第一楽章から第二楽章へ移る。
苦しみもがく時代から逃げるように明るく振舞う音。
音は少しずつドラマティックに変化し、力強くなっていく。
今の梶井さんのよう。
続いて弾いたのは彼が一番得意とする曲。
サンサーンスの白鳥。
この曲は梶井さんにとって特別な曲だった。
雑誌のインタビューで『亡くなった母親が一番好きな曲だった』と言っていた。
いつもこの曲だけは重く悲しく響いて、泣きたくなる。
< 32 / 174 >

この作品をシェア

pagetop