私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「昔からの付き合いで特別な女ってところか」

「そうよ。私が理滉を一番独占しているかもね」

「あんたが一番俺を手放さないんだろ」

「そうよ。私が手放したら理滉はどこにでも行っちゃうもの」

入り込めない二人の雰囲気。
あのカフェで会った女の人とは違う。
二人は信頼し合っているんだとわかった。
それが私の胸の内を焼く。
身の程知らずとわかっていてもこの感情は止められなかった。

「返します」

すっと梶井さんにコートを突き返した。

「何言ってるんだ。風邪ひくだろ?」

「子供なので大丈夫です!」

ふいっと顔背けて歩き出した。
どうせ私は童顔でどんなに頑張っても大人に見えない。
やっと今のセリフを言えたくらいのお子様な女だ。
高いヒールのせいで痛む足をこらえて早足で歩いた。
梶井さんはきっと呆れてもういない。
背後を振りきるように歩いていると、また車のクラクションが鳴った。

「いい加減にしないと迷惑に―――」

先回りして道路に横付けした車をにらんだ。
車の窓が開き、運転席から梶井さんが顔を覗かせた。

「どうして?」

「乗れよ。泣きべそ」
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