私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
梶井さんが運転していて、さっきの美女がいない。

「女の人は……?」

「渡瀬と一緒に行った。俺が送るのはお前の家の近所までだからな」

「はい……」

それだけでも破格の扱いだってわかってる。
乗った車の中は梶井さんの甘い香水の香り―――そして、それに混じって女の人の香水の香りがした。
『特別な女』
梶井さんが別れた女の人よりもですか?
私は気になっていたくせに尋ねることができなかった。
もし、そうだと言われてしまったら、今の私には耐えれそうにない。
梶井さんとは違う香水の香りがして、また泣きそうになったのを窓の方を向いて、なんとかこらえた。

「足が痛いんだろ。無理してそんな高いヒールの靴を履くからだ」

私が足をひきずるように歩いていたことを梶井さんは見破っていた。
だから、きっと私がこんな気合が入った服装の理由もわかってる。

「……うん。そうかも」

けれど、私はそう答えるしかなかった。
だって、梶井さんは(ずる)いから。
私が泣いた理由をわかってるくせにそれを言わない。
狡い大人だ。
家の近所まで行くと、梶井さんは車のドアを開けて私をおろした。
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