私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
二階は美容室や有名な画家さんが使うアトリエ、その上は企業のオフィスに貸し出していて、その賃貸料は小百里さんの収入となっているとか。

「さすが渋木不動産のお嬢様だよね……」

親からビル一つをプレゼントされるなんて、いったいどんな感覚なのだろう。

「望未先生」

「わっ!関家君、早いね!」

黒い詰襟の制服を着た関家君がすでに部屋の前で待っていた。

「すみません。早すぎましたか」

「ううん、大丈夫。待たせてごめんね」

「いえ」

関家君はピアノをやるようなタイプにはあまり見えない。
どちらかというと、バスケをしてそうな容姿をしている。
髪は短くて、スポーツマンタイプ。
校則が緩いのか、髪は茶色に染めていた。
鍵を開けるとそこは小規模な会議ができるくらいの広さにピアノと楽譜が入った棚が置かれ、絨毯がひいてあるスペースにはクッションとソファー、ミニテーブルとおもちゃのピアノがあった。
小百里さんの生徒は年齢層が広く、小さな子も楽しめる工夫がしてある。

「閉め切ったままだったから、少しの時間だけ窓開けるね」

窓を開けた。
暖かい春の空気が流れ込んできた。
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