私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
梶井さんもまずいと思ったのか、さっと体を離した。

「そこのソファーに座ってろ」

「う、うん」

リビングのソファーに座り、どこを見ていようかと視線をさまよわせていると、写真立てが目に入った。
綺麗な女の人と男の子。
男の子は笑ってなくて、綺麗な女の人だけが満面の笑みを浮かべている。
なんだろう。
この違和感。
男の子は難しい顔で母親を見ているのに母親の方はカメラのほうを向いている。
子供用のチェロを手にしているから、男の子は梶井さんなんだろうけど、反抗期なのってくらい険しい目だった。
パタンとその写真立てを倒した。
見えないように。

「あれって、梶井さんのお母さんなのかな……」

亡くなって、立ち直ったというけれど、梶井さんは本当に立ち直ったのかな。
まだ苦しんでいるようにしか私には見えない。
カフェで梶井さんと別れ話をしていた女の人と写真立てでみる梶井さんのお母さんがどこか似ていた。
顔というより、雰囲気が。
梶井さんがお母さんと似たような女の人と付き合うことに理由があるのかもしれない。
傷ついた女の人としか、梶井さんが付き合わないのはお母さんへの罪滅ぼしなんじゃないだろうか。
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