ニガテな副担任はこの頃距離が近すぎる
 相手は全然悪びれる様子もなく、さわやかな笑顔で手を合わせている。

「危なかった~じゃないですよ。ギリギリじゃないですか」

 思わず教師らしくなく、ふくれてしまう。それも仕方ない、だって毎日毎時間毎秒、このうちのクラスの副担任である八神(やがみ)先生はこんな感じなのだ。

 彼――八神史也(ふみや)先生は、この四月からこの学校に赴任してきた。

 といっても新卒の新人教師ではなく私より五歳年上の三十一歳の英語教師だ。数年、国内で教師を務めてその後留学。アメリカの大学で教育学を学んでいたらしい。

 その華やかな経歴もさることながら、見かけもかなり麗しい。
 
 身長は百八十センチを超えて近くで話をするときには背の小さい私は見上げていることが多い。光に透けると明るく見える焦げ茶色の髪、スーッと通った高い鼻梁。

 形のいい目は笑うと目じりにわずかにしわができ、それもまた人の目を引きつけた。

 海外帰りのせいか身のこなしもスマートで、ユーモアにもあふれている。

 女子生徒だけでなく男子生徒にもあっという間に人気になり生徒たちに囲まれている姿をよく目にした。
 
 この学校においては私が先輩だし、うちのクラスの副担任だという理由で指導係なるものを任されたのだが……この朝の様子からおわかりの通り、なかなかの問題児なのである。

「おっと、本格的にやばいな」

 わざとらしく腕時計を確認して、後者の入り口に走っていく。

「もう……」

 思わず腰に手をあててため息が出た。

「いやはや、大変だね。小鳥遊先生も。でも八神先生は生徒にも大人気だよなぁ」
< 3 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop