ニガテな副担任はこの頃距離が近すぎる
 振り向くとそこには、高校三年生の女子生徒が古文の参考書を持って立っていた。

「ここなんですけど」

 職員室前には、生徒が質問をしやすいように丸テーブルと椅子がおいてある。そこに座って話を聞く。進学校なので積極的に質問をしてくる生徒も多い。

「あ、郁ちゃん。俺も聞きたいことがある」

 ひとりの質問を受けていると、他の生徒がやってきて小さな勉強会になったりもする。

「あ~ムズイっ」

 男子生徒が頭を掻きむしながらも、あきらめずに問題を解いて無事に答えを導き出して、下校した。今から塾に向かうらしい。

 生徒たちも頑張っているんだから、私も頑張らないと。そろそろ職員会議の時間だ。

 いつもよりも朝早く出勤したので、普段よりも疲れている。せめてコーヒーを会議の前に飲みたい。

 そんなことを考えながら職員室の席に戻ろうとしていると、廊下の向こうから八神先生がやってくるのが目に入った。

「八神先生、バスケ対決しよ」

「俺、けっこう強いよ。平気?」

「もちろん! 勝ったらジュースおごって」

 数人の男子生徒と話をしながら歩いてきた。そのなかのひとりはうちのクラスの石橋(いしばし)くんだ。

「俺に勝つつもりなのか? 生意気だな」

 楽しそうなところ申し訳ないが、もうすぐ職員会議だ。バスケットボールを楽しむ時間はなさそう。

「八神先生、今から職員会議ですよ」

 一応声をかけておく、会議開始後にいない彼を探すなんてことになったら大変だ。

「あぁ、そうだった。ごめん、みんなバスケはまた今度な」

「えぇー!」

 周囲からブーイングが巻き起こる。

「ごめんな。じゃあ」

「はーい、さようなら」
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