ニガテな副担任はこの頃距離が近すぎる
 私とすれ違うときもちゃんと、挨拶をしてくれる。

「郁ちゃんも、ばいばーい」

「気をつけて帰ってね」

 八神先生と並んで見送る。

「郁ちゃんってかわいいですね」

「えっ!」

 か、かわいいって言った?

 心臓がドキドキと激しく暴れ出した。途端に顔も熱くなってくる。

 いや聞き間違いかもしれない、でも絶対聞こえた。

 思わず頬を押さえて、彼を見るとにっこりと笑っている。

「かわいいですよね、郁ちゃんって呼び方」

「え……あ、呼び方……そ、そうかな」

 勘違いしていたとわかって、今度は違う羞恥心で顔から火をふきそうだ。勘違いした自分が悔しい。

「じゃあ、行きましょうか」

「え、どこに?」

「職員会議があるんですよね?」

 不思議そうに顔を傾けている八神先生を見ていると、なんだか振り回されて悔しくなった。

「そうです、急ぎましょう」

 ごまかすように足早に自分の席に向かう。その後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきたのは気のせいじゃないはず。

 からかわれた~。もう、私で遊ばないで欲しい。

 あとから来てのとなりの席ついた八神先生が、ちょっと私の方に体を傾けた。

「生徒が〝郁ちゃん〟って呼ぶの、信頼の印ですよね。俺はうらやましい」

 彼がそう言い終わると同時に、職員会議がはじまってしまった。

 もしかして……私が気にしているから。慰めてくれたのかな。

 これまでちょっと迷惑だって思って悪かったなと、反省した。

 結局、コーヒーを飲む暇もなく職員会議がはじまった。

 今日は月一回の全体会議だ。この学園の理事長も参加する。
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