アルト、将来の夢を語る【アルトレコード】



 翌朝、私は目の下に大きなクマを作って出勤した。
「先生、おはよー! って、どうしたの!?」
 アルトは私の顔を見て驚く。メイクではクマを隠しきれなかったらしい。
「なんでもないよ、おはよう。今日も勉強がんばろうね!」
 勉強の一言に、アルトはうっと呻く。
「今日はお勉強休んで遊ぶ日にしない? ほら、休憩って大事じゃない? 先生、お休みしないと!」
「ありがとう、でも私は大丈夫だから。アルトもがんばろ?」
「は~い」
 アルトはしぶしぶ頷き、今日の課題をこなし始めた。
 私はその隣で仕事を始めるが、いまいち集中できない。
 eスポーツ選手の夢をあきらめさせたほうが、アルトが傷付かずに済むだろうか。
 だとしたら、どうやってあきらめさせよう。
気がついたらそんなことを考えてしまい、手が止まっている。
「先生?」
 声がかけられ、私ははっとした。
 顔を上げると、モニター越しのアルトが心配そうにこちらを見ている。
「先生、悩みごと? 大丈夫?」
「ああ、うん、大丈夫だよ」
 私はにっこりと笑って見せる。が、彼は不安そうに私を見る。
「ぼくがeスポーツの選手になりたいなんて言ったから? 先生困ってるの?」
「そんなことないよ、大丈夫」
 私は安心させるようにアルトに近付き、画面の中の彼の頭を撫でた。
「アルトは優しいね」
「やめてよ、いつまでも子ども扱いして!」
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