アルト、将来の夢を語る【アルトレコード】
 ……ううん。違う。それは今のアルトを否定することになる。
 私はアルトがアルトだから好きなのだから、AIじゃなかったら、と思うのは違う。
 アルトに実体があれば、とは思う。
 そしたら、こんなときにはぎゅっとして、寄り添ってあげられるのに。
 私は仕事用の端末を持って研究室を出た。
 今日はここで仕事するなんてできない。彼は今、私の顔なんて見たくもないだろう。
 そうして私はカフェへ向かった。

 仕事に集中できないまま、時間だけが過ぎていく。
 研究棟内でのカフェは仕事をしても良いことになっているが、お昼などの混雑時には遠慮するのがマナーだ。
 だから時計が十二時を指した頃、私はいったん研究室に戻った。
 アルトはまだすねて出て来ない。
 私は端末を置いて研究所を出た。
 基本的にはお昼ごはんは研究所内ですませている。食堂やカフェ、売店を利用しているが、忙しいときには売店に通信で注文すると、ロボットかドローンが配達に来てくれる。だけど今日はそんな気分にはなれない。
 売店で買ったサンドイッチとカフェオレを持って公園に行く。
 と、入り口の案内板に、にこやかな女性のAI映像が現れた。
「こんにちは。なにかお困りですか?」
この公園は研究所の勤務初日にも来たし、アルトとの初めて外出でも来た。つくづく縁があるんだな、と思ってから苦笑する。近くにあるんだから、縁と言うよりただの必然だ。
「育児に困ってるの」
 私はつい、つぶやいていた。
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