転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
(こんなところで抱き合うくらいなら、帰ってからの方がマシだよ……!)

 心の中で泣き言を口にするこちらを他所に、彼は抱きしめる力を強めて満足げに微笑んだ。

(ロンドと王太子の間で揺れるティナは、アリだけど……)

 大団円ルートを目指すなら、全員の好感度を告白一歩手前まで高める必要がある。
 そうなれば自然と、攻略対象はティナの虜だ。

 ユキリはロンティナの女だが、ヒロインに恋慕するなとまでは言えない。
 ロンド以外の男がティナに恋愛感情に抱くことが、アリかナシかと聞かれたらーー前者だった。

(モブに言い寄るのは、解釈違いなんだってば~!)

 いくらこの学園では生まれや育ちも関係なく、全員平等に扱われ……。
 幼い頃から妃教育を受けていたとしても――ユキリは殿下と釣り合う身分のご令嬢ではないのだ。

「新入生のくせに……!」
「殿下に触れて頂けることをありがたがるのではなく、嫌がる様子を見せるなんて……!」

 その証拠に、外野の女子生徒達からは山程ブーイングが聞こえてくる。

(こっわ……)

 はっきりと彼の好意を拒否したいのは山々だが、実際声に出せば取り巻きの生徒達から何を言われるかはわかったものではない。
 ユキリは渋々、マイセルと無言の攻防を繰り広げる羽目になった。:
「おっと……。こら。暴れないで。危ないよ?」

 声にならない悲鳴を上げ、彼の手から逃れるために暴れていればーー。
 こちらを見つめていた殿下が、ゆっくりと迫ってきた。

(この、馬鹿力殿下……!)

 彼女は顔を背けて逃れようとしたが、その思惑は実を結ばなかった。
 唇同士が触れ合う距離までマイセルが近づくのを許してしまう。

(ま、まさか……。このまま……?)

 女子生徒達に囲まれているため距離があるものの、ここにはユイガの姿だっているのだ。
 弟の目が黒いうちは、そんな展開になるはずはない。
 たとえ、そうだとしても――。

(うぅ……っ。イケメンに耐性がないせいで、ドキドキと高鳴るこの心臓が憎い……っ!)

 ユキリは迫りくる彼の顔を、無言でじっと見つめるしかなかった。

(このまま本当に、口づけを交わし合うんじゃ……?)

 初めての口づけが、イケメンとの間で交わされるかもしれない。
 そんな状況に心躍らせる一方で、冷静になれと何度も自分に言い聞かせる。
< 115 / 245 >

この作品をシェア

pagetop