転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
(王太子妃は、ユキリしか考えられない)
ユキリ・ラクアと言う少女がどんな性格をしているかは、婚約を結んだあとにじっくりと時間をかけて知っていけばいいだけだ。
このチャンスを逃してはならないと、全力で囲い込みに走ったのだが……。
この行動は、どうやら彼女とは相性が悪かったらしい。
「きゅ、きゅう……」
瞳に浮かんだ涙を唇で掬い取ったところ、刺激が強かったようで――。
かわいらしい鳴き声を上げると、目を回してくたりとその場に崩れ落ちてしまった。
(捕まえた……)
男爵令嬢が意識を失ったのは、好都合だ。
これで思う存分、外堀を埋められる。
(やることは、山程あるな……)
引き離されぬようにしっかりと抱き上げると、まずは遠くからこちらの様子を恨めしそうに見つめている付き人を呼び出した。
「バゼラ」
「はい! 殿下、なんでございましょう?」
「父さんに婚約を結びたいご令嬢が見つかったと伝えて」
「私が、陛下にお伝えするのですか……?」
「僕はその間に、ラクア男爵と話をつけてくる」
「なんですと!?」
こちらの言い分を聞いてバゼラは目を丸くして驚いたが、いちいち構っている暇はない。