転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「えー。教えてよー」
「うざい」

 馴れ初めを聞いても答える気のない彼にピシャリと拒絶されたのは不満だったが、ここで言い争いを繰り広げたところで無意味だ。
 マイセルは愛するユキリを守るため、ユイガとともにそばへ寄り添った。

(僕が彼女を守れたら。きっと、好きになってくれるはずだ)

 好感度を上げることしか考えていなかった彼は、ユキリが危機に瀕した際ーー自分が王族であることをすっかり忘れて、自ら彼女を庇いに走った。

「おい! 起きろ! 馬鹿王子!」

 ――その結果。

 ユイガからありとあらゆる罵倒を受けたマイセルは、その声に驚いて意識を覚醒させた。

「それ、不敬だよ……? いくら僕の意識を覚醒させるためだからと言って、大声で叫ぶのはやめようね……」
「マイセル……!」

 自身の名を呼ぶ彼の声音には、「やっと起きたか」と呆れや安堵の感情が見え隠れしている。

(珍しいことも、あるんだなぁ……)

 まさかユイガから心配されるなど思いもしない。

(僕は確か……)

 感慨深い思いに包まれながら、ここに至るまでの経緯を脳裏に思い浮かべた。
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