転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

　上空から落下してきた植木鉢が肩にぶつかったせいで痛みに耐えきれず、意識を失ったはずだったのだが……。

(全然、痛くない……）

　強打したはずの肩を確認しても、そこにはなんの異常も見られなかった。

「一体、何が……」
「ユキリちゃんが、回復魔法を使ったみたいです」
「まさか……」

　回復魔法とは本来、聖女しか使用できない特別な魔法だ。
　1000年に一度誕生し、迷える子羊達を導き癒やす女性。
　それが、聖女だった。

「ユイガ、間違いないのかい？」
「ああ」

　ユイガは今日に至るまで、何度か彼女の隣で聖なる力を使う姿をマイセルとともに見てきていた。
　彼が頷くあたり、間違いないと見てよさそうだ。

(ああ。ついにこの時が、やってきてしまったか……）

　マイセルは恐れていた事態が現実のものになったとどこか遠い目をしながら、周りを見渡した。
　現状を確認するためだ。

　土の上には粉々に破壊され、中身が飛び出た植木鉢が転がっている。
　自身の前にはぐったりとした様子でその場に座り込んで目を閉じる、ユキリの姿があった。

「ユキリ……」

　愛する人の名を呼んで抱き上げると、離れないように強く胸元へ押しつける。