転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「聖女様」
「私は聖女じゃ……っ!」

 手首を掴まれた指先を、強引に引き剥がそうとしてもどうにもならないのであればーー引っ叩いてでも、離してもらうしかない。

(かくなる上は……!)

 ユキリが左手を振り被り、ザルツの頬に一発入れようとした時だった。

「ユキリ!」

 後方からマイセルの声が響き、婚約者を奪われぬように背中からきつく抱きしめたのは。

「殿下……」
「ユキリは、帰してもらうよ」

 ユキリは上空を見上げて、後悔した。
 殿下がザルツを鬼の形相で睨みつけているのに気づいたからだ。

「行こう」

 彼はそばにいたユイガの諭す声を耳にして、戸惑うユキリを強引に抱き上げると――神官を押し退け、馬車の中へ連れ込んだ。
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