転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

　ぎこちないステップを踏んでいたせいか。何度もヒールの尖った部分を、殿下の足にぶつけてしまったの
　だ。

(大変……！)

　足を踏みつけるたびに、マイセルの笑顔が深まる。
　これは誰がどう見ても、機嫌を損ねてしまった時の顔だ。

「わ、わざとじゃなくて……！」
「うん。知ってるよ。ダンスが下手なユキリも、かわいいね」

　慌てるユキリに、彼は優しい言葉をかけた。

(目が笑ってないのに、安心なんてできるわけがないよ……！)

　ダンスが終わったあとが怖いと怯えながらも、転生する前の出来事を思い浮かべて現実逃避をした。

(前世ではボタンをタイミングよく押すだけの簡単なゲームをプレイして、パーフェクトで終えれば攻略対象と甘い一時のご褒美イベントが見られたのに……！)

　ここがゲームのように都合よく回る世界ではないことを実感しながらも、気をつけなきゃと思えば思うほどステップを間違えてしまう。

「ゴメンナサイ……！」
「心にも思っていない謝罪なんて、いらないから」
「ひ……っ」