転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 片手では数えられないほど彼の足を踏んだあと、満面の笑みを浮かべた殿下から凄まれた。
 引き攣った悲鳴を上げれば、すぐさま彼か指示が飛ぶ。

「僕を見て」
「でも、足元が……」
「怖がらないで。身体を預けて、密着させるんだ。そう。上手だね」
「殿下……」
「ユキリが一番、ダンスホールで輝いているよ」

 耳元で色っぽく囁かれた言葉に、目を見張った。

 それは音楽ゲームでパーフェクトを取った時に、攻略対象が紡ぐ言葉だったからだ。

(殿下、楽しそう……)

 キラキラと美しく光り輝く、シャンデリアに照らされて。

 どれほどユキリに足を踏まれても痛がることなく、満面の笑みを浮かべて楽しそうに踊る殿下に見惚れてしまった。

(好きになったら、駄目なのに……)

 彼と踊るうちに、頬が赤くなるのを感じる。

(彼と一緒が、心地いいって。離れたくないと、思い始めているなんて……)

 自身が抱く気持ちの変化に戸惑いながら、ユキリはどうにかマイセルとのダンスを終えた。

「ユキリ、待って」

 ――ダンスホールで踊っていた生徒達が壁際に捌ける姿を横目に確認したあと、彼とともにその波に乗ろうとした。
 しかし、なぜだかマイセルはその場に留まり続けている。
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