転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 ユキリはここにいるはずのない人物の声を聞いて目を丸くする。

(……ザルツ?)

 彼は神殿の祭司と、マイセルの話をしているようだ。

(ユイガに連れて行かれて、恋愛学園を退学になったはずだよね? 然るべき罰を受けたなら、こんなところにいるはずはないのに……)

 ザルツがここにいる理由がわからずに困惑しながらも、ユキリは物陰に隠れて気配を消す。
 そして、そこから顔を覗かせ――2人の会話に聞き耳を立てた。

「聖女様のお心を、あのような者に奪われるわけにはいかぬ」
「もちろんです。必ずや、聖女様を虜にしてみせましょう」
「期待しておるぞ」
「お任せください」

 ザルツは恋ラヴァで、病弱な弟を救うために聖女となったティナへ、アプローチを仕掛けてくる。

 自らの願いを叶えた彼はやがてどんどんと聖女へ酔心し、癒やしの力を悪用しようと目論む祭司を秘密裏に処刑。
 大規模なクーデターを起こすのだ。

(彼の願いは、弟を助けること……?)

 それさえ叶えられば、彼はこちらに迫ってくる理由がなくなる。

(出鼻を挫いてやろうっと!)

 いいことを思いついたとほくそ笑んだユキリは、2人に見つからないように気配を消す。
 そして、そろりそろりと歩みを進めて部屋へと戻った。
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