転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 ガタゴトと馬車に揺られてザルツとともに向かった先は、治安が悪いと噂のスラム街。そこの、ある一角だった。

(ここ、恋ラヴァで見たことある……!)

 前世の光景を思い浮かべたユキリは、思わず叫び出したい気持ちをぐっと堪える。

 スラム街にしては治安が良すぎる綺麗な背景で、プレイヤー達から突っ込みどころが満載だと騒がれていた。

(普通の田舎っぽい所が、逆に危ないんだよね……)

 誰かを癒やすことしか出来ぬ聖女と、戦力的には当てにならない神官が丸腰でやってくるような場所では、明らかになかった。
 身を護る術を持たないユキリは警戒を怠ることなく、何かあったらどうしようと怯える。

(ユイガが一緒にいてくれたら、心強かったんだけど……)

 剣と魔法の世界と言えば、腕っぷしの強い騎士との恋を連想することも多いが――。
 恋ラヴァにはそうした荒地が得意な攻略対象は存在しなかった。
 しかし、弟がタダベヌ伯爵の養子にならなかったからか。
 彼はメキメキと力をつけ、あっと言う間に王立騎士団で一目置かれる存在として成長していた。

(こんなところにやってくるわけがないよね……)

 ユイガが来てくれたらこれほどありがたいことはないが、この世界は瞬時に連絡を取り合える携帯など存在しなかった。
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