転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!

(これ、夢じゃないよね?)

 今すぐに飛び跳ねて大喜びしたい気持ちでいっぱいになりながら、マイセルをじっと見つめる。

「返事がないみたいだけど……。まさか、駄目なんて言わないよね?」

 何か言いたげな視線を向けながらも、いつまで経っても声が聞こえて来ないからだろう。
 殿下に発言を促されたが、今はその質問に解答するよりも重要な問題がある。

(本当にここが現実なのか、きちんと確かめなくちゃ……!)

 そんな決意を胸に、雪莉は彼の手を勢いよく掴んだ。

「さ、触れる……!」

 これが夢であれば、伸ばした手は空を切るはずなのに――しっかりと殿下の手を握れる。それに気づいて、思わず驚愕の声を上げてしまう。

「ラクア男爵令嬢!? 許可も取らずに殿下のお手に触れるなど……! 不敬ですぞ!」
「いや、いいんだ。下がってくれる?」
「しかし……!」
「僕の言うことが聞けないのかい?」
「く……っ。承知、いたしました……」

 その様子を目にした付き人が騒ぎ立てたが、マイセルに制され後ろへ下がった。

(まだ、こんなに小さいのに……。王太子って、凄いんだなぁ……)

 雪莉は感心した様子で彼から距離を取ろうと試みた。
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