転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 しかし、なぜか手首を掴んだ手は離れなかった。

(あれ? なんで?)

 不思議に思いながら、そこに視線を落とすと――。
 殿下がこちらの指先を絡め取っていた。

(これって、恋人繋ぎだよね……?)

 モブの自分に、どうしてこんなことをしてくるのか。
 不思議で仕方がない。
 なぜなのかと問いかけるように首を傾げると、王太子は微笑みを深めて告げた。

「僕の婚約者にならない?」

 殿下は開いている手で雪莉の顎を掴んで上に向け、顔を近づけてくる。
 誘われているのが恋ラヴァの主人公であれば、美麗スチルを拝めた喜びに打ち震えているところだが――現実は非情だ。

(これって、私に言ってるの? まっさか~)

 攻略対象がモブを気に入るなんて、あり得ない。
 この会場のどこかにいるヒロインに誘っているはずだ。
 そう考えてあたりを見渡すが、どこにもティナの姿は見当たらなかった。

「ねぇ、ユキリ。よそ見しないで。僕は君に、聞いているんだよ」

 そんなユキリの姿を目にしたマイセルは、唇をへの字に曲げて答えを促す。
 その表情は、明らかに不機嫌そうだった。

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