転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

「殿下……！」

　ユイガと殿下が荒い息を吐き出しながら、満身創痍な様子で額から大量の汗を滲ませる。
　それだけなら、よくある話だが――彼らの足元にはなぜか、血痕が散らばっていた。

「さ、惨劇のあと……？」

　一体何がどうなったらこんなふうになるのかと驚きの声を上げれば、こちらに気づいたユイガが真っ先にバゼラへ怒鳴りつけた。

「どうして姉さんを連れてきた！」
「ひ、ひぃ！　申し訳ございません……！」

　こちらが気の毒になるほどペコペコと頭を下げた執事の姿を横目に、ユキリは2人の姿を観察する。

(怪我は、ないみたいだけど……。立っているのがやっとなくらいに、体力を消耗しているみたい……）

　彼らの鍛え抜かれた上半身からは、大量の汗が吹き出していた。

(と言うか、なんで裸なの……？)

　それは恐らく、筋肉質な身体を意味もなく曝け出せば、女性のドキドキ感を引き出せるからだろう。
　そうした手法が作中で使われるのはよくあることだが、ここは残念ながら二次元の世界ではなく現実だ。

(不特定多数に肌を晒したところで逮捕はされないだろうけど……）

　マイセルは一国の王太子であり、ユイガは男爵令息だ。