転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
(ああ、だからユイガは……。私に見られるのを嫌がったんだ……)
ようやく合点がいったユキリは彼らに近づくと、ドレスのポケットからハンカチを取り出して額から流れる汗を拭こうとした。
だが――身長差の関係で、どれほど背伸びをしても届かなかった。
「今は、近寄らないでくれ……。汗臭いだろう……?」
「あ、ごめん……」
弟の胸元を支えにすれば、どうにか触れられるかもしれない。
そう思っていると、ユイガから拒絶を受けてしまった。
バツが悪そうに身体を離すと、待っていましたとばかりに左から腕が伸びてくる。
「ユキリ。ユイガは必要ないみたいだから……。僕の汗を拭き取るの、お願いしてもいいかな?」
「うん」
「姉さん!?」
まさかユキリが了承するなど、思いもしなかったのだろう。
素っ頓狂な声を上げて驚くユイガに向けて勝ち誇った笑みを浮かべた殿下は、その指先が届きやすいようにその場にしゃがんでくれる。
(ユイガには断られちゃったから……。仕方ないよね……?)
心の中でそうした言い訳をしながら、マイセルの額に浮かぶ汗をハンカチで拭い取った。