転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 殿下に凄まれた執事は顔を真っ青にすると、何事かとこちらを見つめる人々に箝口令を敷き始めた。

(殿下の命令は、絶対だろうけど……。そんなにうまく、行くのかな……?)

 ユキリは不安そうに、己を抱きしめるマイセルを見上げる。
 こうも何度も無意識に聖女としての力を発動してしまった以上、神殿に見つかるのは時間の問題だ。
 7年もこんな状態でのらりくらりと秘密を守り続けることができるなど、到底思えなかった。

「心配いらないよ」
「でも……」
「僕の傷を、治してくれてありがとう」
「どう、いたしまして……?」

 お礼を言われた以上は、そのままになどしてはおけない。
 ユキリは困惑しながらも、殿下に向けてお礼を告げた。

「ユキリはほんとに礼儀正しくて、いい子だね。将来、とっても素敵な女性に成長すると思う」
「そうかな……?」
「うん。その時が見られるのが、楽しみだ」

 マイセルはユキリに、何か言いたげな様子でこちらを見つめた。
 それが不思議で堪らなくて、2人は長時間目を合わせ続け――。

「~っ! いつまで姉さんに引っついているつもりだ! 退け!」

 痺れを切らしたユイガが割って入り、ようやく視線を外した。
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