25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

——これはもう、運命だろう。

そう確信したときには、すでに彼女に歩み寄っていた。

無事に商談を終え、帰社せずにそのまま週末を迎えようとした矢先、
美和子の姿を見つけた。

彼女は、不動産のガラス窓に貼られた物件情報を、楽しそうに、夢中で眺めていた。
まるで宝探しでもしているかのように、目をきらきらと輝かせて。
ほんのり頬を赤く染めたその横顔は、真樹が昔から好きだった表情のままだった。

「……引っ越すのか？」

そう思ったときには、声をかけていた。

驚いて振り向いた美和子の顔に、鼓動が高鳴る。
あの頃と変わらない。でも、大人になった彼女の凛とした佇まいは、
ますます真樹の心を掴んだ。

部下が「車を回してきます」と言ったとき、
真樹はわずかに目で合図を送った。

優秀な彼はすぐに察して、
その物件の内見が今すぐ可能かどうかを調整し始めた。

そして——すべてがうまく運んだ。

内見はスムーズに進み、
美和子は「ここに決めます」と静かに、でもはっきりと口にした。

その瞬間、真樹は決めた。

——俺も、ここに住もう。

もともと、住まいを変えるタイミングを探していた。
日常のどこかを変えたいと思っていたし、
この街の空気は、どこか懐かしく心地よかった。

けれど決定打は、ただ一つ。

美和子がこの街に来ると決めたこと。
そして彼女が、新しい場所で人生を始めようとしている、その姿を見たから。

もちろん、彼女にはまだ何も言わない。
だが、同じ街に住むということは、ほんの少しの偶然を装って、
何度でも会えるチャンスを持てるということだ。

「もっと、近づける——」

そう思ったとたん、真樹の胸は高鳴っていた。
久しぶりに、自分の心臓の音を“うるさい”と感じるほどに。

美和子を想う気持ちが、再び動き出した。
今度は、確実に、彼女の隣にたどり着くために。