25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
マンションのエントランスに足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
広々としたロビーには柔らかな自然光が差し込み、静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。
何度か内見で来たはずなのに、今日のこの場所は、どこか違って感じられた。
“住む”という実感が、ゆっくりと胸に降りてくる。
「鍵は……これか」
美和子がポーチから鍵を取り出すと、真樹が一歩前に出て、エレベーターのボタンを押した。
彼の動作はいつもどこか控えめで、それでいて、ぴたりと寄り添うように自然だ。
「緊張してる?」
「ちょっとだけ。でも……楽しみでもあります」
「そうか、それならよかった」
エレベーターの扉が開き、二人は中に乗り込む。
5階へとゆっくり昇るその静かな空間に、わずかな緊張と、ほんの少しの期待が混じる。
玄関の扉を開けると、ふわりと新しい木の香りが鼻をくすぐった。
思わず「ただいま」と言いたくなってしまうような、不思議な安心感。
リビングの窓からは、遠くまで見渡せる街の風景が広がっている。
「……やっぱり、いい眺めですね」
「気に入った?」
「はい。静かで……落ち着きます」
部屋に足を踏み入れると、家具がすでにすべて配置されていた。
内見のときはまだ殺風景だった空間が、今はどこか、"住まう"人の温度を感じさせるように整っている。
カーテンデザイナーとの打ち合わせまで少し時間があったので、美和子は真樹と一緒に車まで荷物を取りに行くことにした。
段ボールをいくつか抱えながらエレベーターに乗ると、ふと真樹が言った。
「この瓶、重いな……梅干しか?」
「はい、去年ちょっと張り切りすぎちゃって。思ったよりたくさんできてしまって……」
「そうなんだ」
「でも、職場の同僚とか友達にあげたら、すごく喜ばれたんです。手作りって、やっぱり嬉しいみたいで」
美和子はそう言って、少し得意げに笑った。
「じゃあ、俺にも分けてもらえるかな?」
「え?」
美和子が少し戸惑ったように振り返ると、真樹はさりげなく、でも楽しそうに続けた。
「いや、やっぱりいい。俺はここで食べるから」
「……ここで?」
「だってさっきのおにぎり、うまかった。また食べたいんだよ」
それから、ふと思い出したように言葉を重ねる。
「それに、梅酒もごちそうしてくれるって言ってたじゃないか。ここに来ないと味わえないだろ?」
その言い方があまりにも自然で、あたりまえのようだったので、美和子は思わず苦笑いした。
「……そういえば、そんな話しましたね」
「したよ。しっかり覚えてる」
「なんか、話の流れが……」
ごまかすように笑ってみせるが、自分でも何に照れているのかわからない。
“ここに来ないと”
“また食べたい”
その言葉のなかに、真樹の気持ちのかけらがさりげなく散りばめられているようで、美和子は胸の奥がふわりと熱くなるのを感じていた。
そんな空気を吹き飛ばすように、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。
「……カーテンの方ですね」
現実に戻るように、美和子はそう言って笑顔を整え、荷物を置いて玄関へ向かった。
広々としたロビーには柔らかな自然光が差し込み、静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。
何度か内見で来たはずなのに、今日のこの場所は、どこか違って感じられた。
“住む”という実感が、ゆっくりと胸に降りてくる。
「鍵は……これか」
美和子がポーチから鍵を取り出すと、真樹が一歩前に出て、エレベーターのボタンを押した。
彼の動作はいつもどこか控えめで、それでいて、ぴたりと寄り添うように自然だ。
「緊張してる?」
「ちょっとだけ。でも……楽しみでもあります」
「そうか、それならよかった」
エレベーターの扉が開き、二人は中に乗り込む。
5階へとゆっくり昇るその静かな空間に、わずかな緊張と、ほんの少しの期待が混じる。
玄関の扉を開けると、ふわりと新しい木の香りが鼻をくすぐった。
思わず「ただいま」と言いたくなってしまうような、不思議な安心感。
リビングの窓からは、遠くまで見渡せる街の風景が広がっている。
「……やっぱり、いい眺めですね」
「気に入った?」
「はい。静かで……落ち着きます」
部屋に足を踏み入れると、家具がすでにすべて配置されていた。
内見のときはまだ殺風景だった空間が、今はどこか、"住まう"人の温度を感じさせるように整っている。
カーテンデザイナーとの打ち合わせまで少し時間があったので、美和子は真樹と一緒に車まで荷物を取りに行くことにした。
段ボールをいくつか抱えながらエレベーターに乗ると、ふと真樹が言った。
「この瓶、重いな……梅干しか?」
「はい、去年ちょっと張り切りすぎちゃって。思ったよりたくさんできてしまって……」
「そうなんだ」
「でも、職場の同僚とか友達にあげたら、すごく喜ばれたんです。手作りって、やっぱり嬉しいみたいで」
美和子はそう言って、少し得意げに笑った。
「じゃあ、俺にも分けてもらえるかな?」
「え?」
美和子が少し戸惑ったように振り返ると、真樹はさりげなく、でも楽しそうに続けた。
「いや、やっぱりいい。俺はここで食べるから」
「……ここで?」
「だってさっきのおにぎり、うまかった。また食べたいんだよ」
それから、ふと思い出したように言葉を重ねる。
「それに、梅酒もごちそうしてくれるって言ってたじゃないか。ここに来ないと味わえないだろ?」
その言い方があまりにも自然で、あたりまえのようだったので、美和子は思わず苦笑いした。
「……そういえば、そんな話しましたね」
「したよ。しっかり覚えてる」
「なんか、話の流れが……」
ごまかすように笑ってみせるが、自分でも何に照れているのかわからない。
“ここに来ないと”
“また食べたい”
その言葉のなかに、真樹の気持ちのかけらがさりげなく散りばめられているようで、美和子は胸の奥がふわりと熱くなるのを感じていた。
そんな空気を吹き飛ばすように、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。
「……カーテンの方ですね」
現実に戻るように、美和子はそう言って笑顔を整え、荷物を置いて玄関へ向かった。