25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
玄関のチャイムが鳴ると、美和子は軽く深呼吸をしてドアを開けた。
柔らかなベージュのスーツに身を包んだ女性が、にこやかに名刺を差し出す。
「こんにちは。カーテンコーディネートの森田です。本日はよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします。どうぞ、お入りください」
玄関からリビングへと案内し、打ち合わせが始まった。
森田は手慣れた様子で生地サンプルの束を広げ、美和子に好みをヒアリングしていく。
「柔らかい光を取り込みたいということでしたら、こちらのリネン調が自然光と相性がいいですね。遮光性も重視されますか?」
「そうですね……寝室は遮光性があった方がいいかな。でもリビングは明るさを取り込みたいです」
美和子はサンプルを指先で撫でながら、ひとつひとつ確かめるように答えていく。
その隣で、真樹は黙って座っていた。脚を組み、時折視線を泳がせながらも、特に口を挟むことはなかった。
(ずっと黙ってる……)
どこか不思議な気持ちで美和子はちらりと真樹を見た。
森田がリビングの窓辺に生地をかざし、光の透け具合を確認させてくれる。
「……あ、この色、いいかも。落ち着いてて、でも地味すぎなくて……」
「お似合いだと思いますよ。こういうニュアンスカラーは、肌の色とも相性がいいですから」
「肌の色……そうなんですね」
少し照れくさそうに言いながら、ふと、美和子は真樹の視線を感じて顔を向ける。
彼はなにも言わず、ただ穏やかな目でこちらを見ていた。
打ち合わせはスムーズに進み、最後の確認を済ませると、森田が荷物をまとめながら立ち上がる。
「では、こちらで確定させていただきますね。取り付けは2時間後となりますがよろしいでしょうか」
「はい、楽しみにしています。ありがとうございました」
森田が去ったあと、しばらくリビングには静けさが戻った。
ふと、美和子が口を開く。
「……なんだか、不思議ですね。前の家とは、全然ちがうのに、落ち着く感じがする」
すると、真樹が静かに言った。
「そりゃそうだ。……ここは君の居場所だから」
そのひとことが、まるで胸の奥をやさしくノックされたように、美和子の心に触れた。
「……居場所、ですか?」
「うん。たぶん、俺にとってもそうなんだと思うけど」
真樹は、冗談めかすでもなく、飾り気もなく、ただ真っ直ぐにそう言った。
それ以上言葉は続かず、沈黙がふたりの間に落ちた。
けれど、それは気まずさではなく、どこかあたたかくて、安らかなものだった。
柔らかなベージュのスーツに身を包んだ女性が、にこやかに名刺を差し出す。
「こんにちは。カーテンコーディネートの森田です。本日はよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします。どうぞ、お入りください」
玄関からリビングへと案内し、打ち合わせが始まった。
森田は手慣れた様子で生地サンプルの束を広げ、美和子に好みをヒアリングしていく。
「柔らかい光を取り込みたいということでしたら、こちらのリネン調が自然光と相性がいいですね。遮光性も重視されますか?」
「そうですね……寝室は遮光性があった方がいいかな。でもリビングは明るさを取り込みたいです」
美和子はサンプルを指先で撫でながら、ひとつひとつ確かめるように答えていく。
その隣で、真樹は黙って座っていた。脚を組み、時折視線を泳がせながらも、特に口を挟むことはなかった。
(ずっと黙ってる……)
どこか不思議な気持ちで美和子はちらりと真樹を見た。
森田がリビングの窓辺に生地をかざし、光の透け具合を確認させてくれる。
「……あ、この色、いいかも。落ち着いてて、でも地味すぎなくて……」
「お似合いだと思いますよ。こういうニュアンスカラーは、肌の色とも相性がいいですから」
「肌の色……そうなんですね」
少し照れくさそうに言いながら、ふと、美和子は真樹の視線を感じて顔を向ける。
彼はなにも言わず、ただ穏やかな目でこちらを見ていた。
打ち合わせはスムーズに進み、最後の確認を済ませると、森田が荷物をまとめながら立ち上がる。
「では、こちらで確定させていただきますね。取り付けは2時間後となりますがよろしいでしょうか」
「はい、楽しみにしています。ありがとうございました」
森田が去ったあと、しばらくリビングには静けさが戻った。
ふと、美和子が口を開く。
「……なんだか、不思議ですね。前の家とは、全然ちがうのに、落ち着く感じがする」
すると、真樹が静かに言った。
「そりゃそうだ。……ここは君の居場所だから」
そのひとことが、まるで胸の奥をやさしくノックされたように、美和子の心に触れた。
「……居場所、ですか?」
「うん。たぶん、俺にとってもそうなんだと思うけど」
真樹は、冗談めかすでもなく、飾り気もなく、ただ真っ直ぐにそう言った。
それ以上言葉は続かず、沈黙がふたりの間に落ちた。
けれど、それは気まずさではなく、どこかあたたかくて、安らかなものだった。