25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
夕食を終えたあと、真樹は黙ってキッチンへと立ち、慣れない手つきで皿を重ね始めた。
「いいですよ、真樹さん。疲れてるでしょう?」
「いや、今日はずっと君に世話になってたから、これくらいさせてくれよ」
そう言って、ちゃっちゃと洗い物を流しへ運び、スポンジを手に取る。
普段は指示を出す側の男が、静かに台所に立っている姿は、どこか不思議だった。
けれど、それは妙にしっくりくる光景でもあった。
ひと通り片づけを終えると、真樹はタオルで手を拭きながら美和子の方を見た。
「引っ越しで疲れただろう? 飯、うまかった。ごちそうさま。ありがとう」
それだけ言うと、特別な余韻も残さず、ふっと笑って玄関へ向かっていく。
美和子が何か言おうとした時には、もうドアを開けかけていた。
「ゆっくり休めるといいな。じゃあ、また」
「あ……はい。おやすみなさい」
ドアが閉まる音は、思ったよりも軽く響いた。
真樹は、別れ際がいつもあっさりしている。
そこが少し、拍子抜けするような、けれどありがたいような……複雑な気持ちを残す。
ホッとする自分がいる一方で、どこか胸の奥がぽつんと寂しさを抱えていた。
(……どうしてだろう)
ふたりで囲んだ食卓。
何気ない会話の中で、ふとした好みや感覚が自分と似ているとわかって、思わず笑い合った時間。
まるで、長く付き合ってきた夫婦のような、自然で穏やかなやりとり。
——そういえば、誰かとあんな風に落ち着いて話したの、いつぶりだろう。
胸の中に小さな灯がともるような、でもまだ手に取れないほど淡いぬくもり。
美和子はまだ気づいていなかった。
それが、心の奥にそっと芽吹き始めた、
「この人といると、心地いい」という感情の、はじまりだということに。
「いいですよ、真樹さん。疲れてるでしょう?」
「いや、今日はずっと君に世話になってたから、これくらいさせてくれよ」
そう言って、ちゃっちゃと洗い物を流しへ運び、スポンジを手に取る。
普段は指示を出す側の男が、静かに台所に立っている姿は、どこか不思議だった。
けれど、それは妙にしっくりくる光景でもあった。
ひと通り片づけを終えると、真樹はタオルで手を拭きながら美和子の方を見た。
「引っ越しで疲れただろう? 飯、うまかった。ごちそうさま。ありがとう」
それだけ言うと、特別な余韻も残さず、ふっと笑って玄関へ向かっていく。
美和子が何か言おうとした時には、もうドアを開けかけていた。
「ゆっくり休めるといいな。じゃあ、また」
「あ……はい。おやすみなさい」
ドアが閉まる音は、思ったよりも軽く響いた。
真樹は、別れ際がいつもあっさりしている。
そこが少し、拍子抜けするような、けれどありがたいような……複雑な気持ちを残す。
ホッとする自分がいる一方で、どこか胸の奥がぽつんと寂しさを抱えていた。
(……どうしてだろう)
ふたりで囲んだ食卓。
何気ない会話の中で、ふとした好みや感覚が自分と似ているとわかって、思わず笑い合った時間。
まるで、長く付き合ってきた夫婦のような、自然で穏やかなやりとり。
——そういえば、誰かとあんな風に落ち着いて話したの、いつぶりだろう。
胸の中に小さな灯がともるような、でもまだ手に取れないほど淡いぬくもり。
美和子はまだ気づいていなかった。
それが、心の奥にそっと芽吹き始めた、
「この人といると、心地いい」という感情の、はじまりだということに。