25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
ふわりと甘い香りに包まれて、テーブルに並んだフレンチトーストが湯気を立てていた。
カリッと焼かれた外側に、バターとメープルシロップがとろけて光っている。

「……うまい。ほんと、うまいな」

ナイフを入れて一口食べた真樹が、しみじみとつぶやいた。
その素朴な感想に、美和子はくすりと笑う。

「よかったです。簡単なものですけど」

「いや、これがいいんだよ。家で食べる朝ごはんって、案外こういうのが一番贅沢かもな」

美和子が頬を緩めたとき、真樹がふと思い出したように言った。

「今日さ。展示会と物産展、何時くらいに行きたい?」

「……え?行くって、言いましたっけ?」

「ビールグラスが欲しいんだろ?」

「……そ、それはそうですけど」

「じゃあ、行こう。一点物で、気に入るのがあるかもしれない。
初日だから案外混んでるかもしれないし。欲しいものが見つかるチャンスかもしれないぞ」

「……それもそうですね。あれ?また流されてるような……」

「いいじゃないか、俺も付き合いたいだけなんだから」

にやりと笑った真樹に、美和子は少しだけ照れくさそうに微笑み返した。

朝食を終えたあと、真樹は黙って食器を片づけてくれた。
そのおかげで美和子は着替える時間が取れ、身支度を整えてリビングに戻る。

淡いピンクベージュのワンピースに、彼からもらったパンプスを合わせて足を滑り込ませる。

「……どうでしょう?」

振り返って問いかけると、真樹は一瞬目を見張ってから、柔らかく頷いた。

「よく似合ってる。……嬉しいよ、履いてくれて」

その表情に気づいた美和子は、少し照れたように言う。

「とっても履きやすいし、合わせやすいんです。大事に、はかせてもらっています」

「そうか」

エレベーターで地下の駐車場へ降りる。
並んで歩くうち、真樹が自然と手を伸ばしてきた。
美和子の指先を、ためらいなく絡め取る。

その動きがあまりにも自然で、美和子は驚く暇もなく、ただ手を預けていた。

――もう、抵抗する理由が見つからなかった。

心地よい静けさのなか、二人は手をつないだまま車に乗り込み、真樹の運転でデパートへと向かっていった。

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