25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
土曜日の午後。
デパートの中は、多くの人で賑わっていた。

美和子の目がふと止まったのは、江戸切子のコーナーだった。
繊細なカットの入ったグラスが、光を受けて美しくきらめいている。

「……綺麗ですね」

「うん。いいな、これ。君が手に取ると、なおさら映える」

美和子が選んだペアグラスを、真樹も気に入り――
当然のように、真樹がレジで支払いを済ませた。

「もう……」

「いいじゃないか。今日は、君の欲しいものを探す日なんだから」

そのあとは物産展で地方の名産品をいくつか買い、美和子の手には小さな紙袋がいくつも増えていた。
帰り際、真樹がふと訊いた。

「美和子、お腹すいてる?」

「……いえ、大丈夫です」

「そっか。じゃあ、他に観たいところはある?」

「……あるんですけど……」

「じゃあ、行こう。どこ?」

「ちょっと……」
美和子が視線を落とす。さっきまでの楽しげな雰囲気とは少し違って、どこか困っているようにも見えた。

「……真樹さんには、遠慮してほしいです」

「……え?」
真樹は立ち止まり、少し怪訝そうな顔で美和子を見た。

「どうして? 俺、何かしたか?」

問いかける真樹に、美和子はまるで「察してください」とでも言いたげに、口をつぐんだままうつむいている。

「美和子……なに? 隠し事しないで、俺に言ってくれよ」

真樹の低く優しい声に、美和子はさらに赤くなりながら、小さく息を呑んだ。

「……なに? 聞こえないよ」

すると、美和子はそっと背伸びをして――
真樹の耳もとに、顔を寄せてささやいた。

「……あの……下着売り場に行きたいんです」

一瞬、間の抜けた沈黙。
真樹が目を丸くして、ぽかんと口を開ける。

「……え? あ、そ、そうか……悪い!」

顔を真っ赤にして慌てる真樹に、美和子もつられて吹き出した。
それはほんのひととき、二人だけにしかわからない、甘く照れくさい空気だった。

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