25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「じゃあ、俺はいったん、買ったものを車に置いてくるよ」
そう言って、手に持っていたいくつかの紙袋を軽く持ち上げてみせた。
「このままじゃ重いしな。あと、上の本屋に寄ってくる。カフェも併設されてるし、本読みながら待ってるよ」
「……いいんですか?」
「もちろん。君は自分の買い物を、ゆっくり楽しんでおいで。終わったら電話してくれればすぐ行くから」
美和子は、ふっと口元が緩むのを自覚した。
つかず離れず、でも確かに隣にいてくれる。
そういう距離感が、今の自分には心地いい。
「……わかりました。じゃあ、あとで、ありがとうございます」
真樹はそれだけ言って、軽く手を振るとエレベーターの方へ歩いて行った。
別々の時間が流れ始めたけれど、どこかに“安心”がある。
人混みをすり抜けて、エスカレーターで上の階へと向かう。
真樹と別れてからの一人の時間。美和子は、なぜだか心がふんわりと浮いていた。
目的もなく歩くうち、ふと視界に入ってきたランジェリーショップのショーウィンドウ。
淡いローズカラーのセットが目に留まり、吸い寄せられるように足が止まった。
——入ってみようかな。
軽い気持ちで扉をくぐると、店内には上品な音楽と、ふわりと香る柔らかなフレグランス。
優しい笑顔の店員が声をかけてくる。
「ご試着もできますので、ぜひお気軽にお声がけくださいね」
「……あの、サイズって、測ってもらえますか?」
「もちろんです。よろしければこちらへ」
フィッティングルームの中、胸の下に巻かれるメジャー。
数字とともに、プロの手による丁寧なアドバイスが続く。
「お客様、少しだけサイズが変わってきているかもしれませんね。お身体が引き締まって、より立体的になってらっしゃる」
「え……そうなんですか?」
「はい。今の体にぴったり合うと、つけ心地も全然違いますよ。せっかくなので、いくつかおすすめさせていただいても?」
手渡されたのは、繊細なリバーレースとチュールが重なった淡いベージュピンク。
もう一つは、深いワインレッドにゴールドの刺繍が施された、少し大胆なデザイン。
「ちょっとセクシーすぎるかも……」
「でもお客様なら、きっと素敵に着こなせますよ。ご自身で気づいていらっしゃらないだけかもしれません」
すすめられるまま、ひとつひとつ試着していく。
肌に触れる感覚。鏡に映る自分の姿。
どこか、今までの自分じゃないような――でも、不思議と嫌じゃない。
ワインレッドのセットを身に着けた瞬間、胸の奥がざわりとした。
——これは、誰かのためじゃない。
ただ、私が「着けてみたい」と思ったから。
その事実が、妙に胸に響いた。
気づけば、美和子はそのきわどいセットまでレジに差し出していた。
「こちらでよろしいですか?」
「……はい。お願いします」
包装された小さな紙袋を受け取って、ショップを出た瞬間。
通りすぎる人々の中、自分だけが少し違う世界にいるような、不思議な感覚がした。
——少しずつ、変わってきている。
誰かに見せるためじゃなく、私が“私”を纏いたいと思えるようになった。
心の奥で、小さな炎が灯った。
それはまだ弱いけれど、確かにあたたかく、自分自身を照らし始めている。
そう言って、手に持っていたいくつかの紙袋を軽く持ち上げてみせた。
「このままじゃ重いしな。あと、上の本屋に寄ってくる。カフェも併設されてるし、本読みながら待ってるよ」
「……いいんですか?」
「もちろん。君は自分の買い物を、ゆっくり楽しんでおいで。終わったら電話してくれればすぐ行くから」
美和子は、ふっと口元が緩むのを自覚した。
つかず離れず、でも確かに隣にいてくれる。
そういう距離感が、今の自分には心地いい。
「……わかりました。じゃあ、あとで、ありがとうございます」
真樹はそれだけ言って、軽く手を振るとエレベーターの方へ歩いて行った。
別々の時間が流れ始めたけれど、どこかに“安心”がある。
人混みをすり抜けて、エスカレーターで上の階へと向かう。
真樹と別れてからの一人の時間。美和子は、なぜだか心がふんわりと浮いていた。
目的もなく歩くうち、ふと視界に入ってきたランジェリーショップのショーウィンドウ。
淡いローズカラーのセットが目に留まり、吸い寄せられるように足が止まった。
——入ってみようかな。
軽い気持ちで扉をくぐると、店内には上品な音楽と、ふわりと香る柔らかなフレグランス。
優しい笑顔の店員が声をかけてくる。
「ご試着もできますので、ぜひお気軽にお声がけくださいね」
「……あの、サイズって、測ってもらえますか?」
「もちろんです。よろしければこちらへ」
フィッティングルームの中、胸の下に巻かれるメジャー。
数字とともに、プロの手による丁寧なアドバイスが続く。
「お客様、少しだけサイズが変わってきているかもしれませんね。お身体が引き締まって、より立体的になってらっしゃる」
「え……そうなんですか?」
「はい。今の体にぴったり合うと、つけ心地も全然違いますよ。せっかくなので、いくつかおすすめさせていただいても?」
手渡されたのは、繊細なリバーレースとチュールが重なった淡いベージュピンク。
もう一つは、深いワインレッドにゴールドの刺繍が施された、少し大胆なデザイン。
「ちょっとセクシーすぎるかも……」
「でもお客様なら、きっと素敵に着こなせますよ。ご自身で気づいていらっしゃらないだけかもしれません」
すすめられるまま、ひとつひとつ試着していく。
肌に触れる感覚。鏡に映る自分の姿。
どこか、今までの自分じゃないような――でも、不思議と嫌じゃない。
ワインレッドのセットを身に着けた瞬間、胸の奥がざわりとした。
——これは、誰かのためじゃない。
ただ、私が「着けてみたい」と思ったから。
その事実が、妙に胸に響いた。
気づけば、美和子はそのきわどいセットまでレジに差し出していた。
「こちらでよろしいですか?」
「……はい。お願いします」
包装された小さな紙袋を受け取って、ショップを出た瞬間。
通りすぎる人々の中、自分だけが少し違う世界にいるような、不思議な感覚がした。
——少しずつ、変わってきている。
誰かに見せるためじゃなく、私が“私”を纏いたいと思えるようになった。
心の奥で、小さな炎が灯った。
それはまだ弱いけれど、確かにあたたかく、自分自身を照らし始めている。