25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

スマホに「滝沢真樹」の名前が表示された瞬間、美和子は思わず画面をタップしていた。

こんな時間に電話なんて、何かあったのか――
そう思う前に、彼の声が聴こえてきた。

「今、何してる？」

低く落ち着いた声。
その響きだけで、心がふわりと浮き立つ。

どうやら真樹も、一人で飲んでいるらしい。
「そっちに行っていいか？」と尋ねられた瞬間、心臓が跳ねる。

（来たいって……ここに？）

声が出ないほど動揺して、しばらく言葉を探した。

「……はい。いいですよ」

口からこぼれた自分の声は、自分のものとは思えないほどかすかだった。

「今行く」

そう告げた真樹の言葉に、胸が高鳴った。

切れた通話のあと、美和子はしばらくスマホを持ったまま、動けなかった。

（……私、もう彼のこと、拒めない）

静かにそう思った。
彼のまっすぐな眼差し、優しさ、あの少し不器用な真摯さ。
日常の何気ない瞬間が、少しずつ、でも確実に、美和子の心に積もっていた。


通話が終わると、美和子はしばらくその場に立ち尽くしていた。
真樹が来る。――今から、この部屋に。


ふと、鏡の前に立つ。
パウダールームの柔らかな明かりが、自分の表情を照らす。

（こんな顔してたんだ、私）

頬がうっすら紅くなっている。
瞳の奥が、どこか熱を帯びている。

髪をほんの少し整える。
ルームウェアの襟元を軽く直しながら、（これでいいの？）と自問する。

気づけば、真樹に落ちていた――
そんな自分を、もう止めることはできなかった。