25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「……寝ちゃったの?」
返事はない。
リビングのソファに横たわる真樹は、ゆるく閉じた目元に、うっすらと微笑を残しているようにも見えた。
(飲みすぎたのかな……)
美和子は冷えたグラスを片づけ、そっと引き出しからブランケットを取り出した。
真樹の上にやさしくかけると、その胸の上下が規則正しく呼吸しているのが見える。
ふと、手が動いた。
まるで意思とは関係なく。
彼の額にかかった前髪を、そっと指で払う。
そしてそのまま、髪を優しく撫でた。
気配でわかる。
彼女が部屋の明かりを暗くした。
静かに、そして丁寧に。
片付けも終えて、ようやく腰を下ろしたらしい。
俺はまだ“寝たふり”を続けていた。
けれど、どうしようもなく――彼女に触れたくなった。
寝返りをうつふりをして、そっと腕を伸ばす。
次の瞬間、美和子の細い体が、俺の胸の中に収まった。
「え……?」
彼女が小さく戸惑いの声を上げた気がする。
でも逃げようとはしない。
俺の腕の力を知っているからだろう。
ふと力を緩めようかとも思ったが、それは惜しくて、
ほんの少しだけ、強く抱きしめる。
(もう……放したくない)
その想いが、意識の境を越えてしまったのかもしれない。
気づけば、自分の唇が動いていた。
「……美和子」
「……はい?」
小さな声が、胸のあたりで返ってきた。
まさか返事をされるとは思わず、言葉は続いた。
「……美和子……」
再び名前を呼ぶ。
今度は、もう少し深く、夢に沈みながら。
「……愛してる」
それは、自分でも驚くほど素直な言葉だった。
ようやく辿り着いた真実。
長い年月を越えて、ようやく触れられた気持ち。
美和子が息を呑むのが、分かった。
その体が微かに震える。
でももう、俺の意識は、深いところへ引き込まれていた。
胸の奥に残るのは、彼女のぬくもりと、あの香り。
安堵に満たされながら、俺は本当の眠りに落ちていった。
そしてその夜、美和子もまた、
胸にまだ残る言葉の余韻を抱きながら、
そっと目を閉じた。
静かな夜が、ふたりを包み込むように。
返事はない。
リビングのソファに横たわる真樹は、ゆるく閉じた目元に、うっすらと微笑を残しているようにも見えた。
(飲みすぎたのかな……)
美和子は冷えたグラスを片づけ、そっと引き出しからブランケットを取り出した。
真樹の上にやさしくかけると、その胸の上下が規則正しく呼吸しているのが見える。
ふと、手が動いた。
まるで意思とは関係なく。
彼の額にかかった前髪を、そっと指で払う。
そしてそのまま、髪を優しく撫でた。
気配でわかる。
彼女が部屋の明かりを暗くした。
静かに、そして丁寧に。
片付けも終えて、ようやく腰を下ろしたらしい。
俺はまだ“寝たふり”を続けていた。
けれど、どうしようもなく――彼女に触れたくなった。
寝返りをうつふりをして、そっと腕を伸ばす。
次の瞬間、美和子の細い体が、俺の胸の中に収まった。
「え……?」
彼女が小さく戸惑いの声を上げた気がする。
でも逃げようとはしない。
俺の腕の力を知っているからだろう。
ふと力を緩めようかとも思ったが、それは惜しくて、
ほんの少しだけ、強く抱きしめる。
(もう……放したくない)
その想いが、意識の境を越えてしまったのかもしれない。
気づけば、自分の唇が動いていた。
「……美和子」
「……はい?」
小さな声が、胸のあたりで返ってきた。
まさか返事をされるとは思わず、言葉は続いた。
「……美和子……」
再び名前を呼ぶ。
今度は、もう少し深く、夢に沈みながら。
「……愛してる」
それは、自分でも驚くほど素直な言葉だった。
ようやく辿り着いた真実。
長い年月を越えて、ようやく触れられた気持ち。
美和子が息を呑むのが、分かった。
その体が微かに震える。
でももう、俺の意識は、深いところへ引き込まれていた。
胸の奥に残るのは、彼女のぬくもりと、あの香り。
安堵に満たされながら、俺は本当の眠りに落ちていった。
そしてその夜、美和子もまた、
胸にまだ残る言葉の余韻を抱きながら、
そっと目を閉じた。
静かな夜が、ふたりを包み込むように。