25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
楽しい時間を過ごしていた美和子とは対照的に、真樹はどこか落ち着かない気持ちで午後を迎えていた。
仕事を終えるや否や、すぐに美和子にメッセージを送った。
——「今日はどう?一緒にランチでも」
しかし、待てども返事が来ない。三十分経っても既読すらつかない。
胸の奥がざわつきはじめる。
何かあったのか?まだ寝ている?それとも……昨日の寝方が悪くて体調を崩したのかもしれない。
いてもたってもいられず、美和子の部屋へ向かい、チャイムを鳴らす。
——沈黙。
何の応答もない。
不安が膨らむ。念のために電話をかけてみるが、「電源が入っていないか、圏外です」と機械的な音声が返ってくるだけだった。
エントランスへ向かい、近くにいたコンシェルジュに声をかけた。
「あの、佐藤美和子さんを見かけませんでしたか?」
何度も美和子と一緒に出かける二人を見てきた彼は、にこやかに答える。
「ええ、数時間前に。いつも通りにご挨拶されて、元気そうでしたよ」
その一言で、真樹の中の不安がふっと和らぐ。——少なくとも、体調は悪くないらしい。
けれど、次の瞬間、別の感情が胸の内から顔を出した。
——なぜ、何も言わずに出かけた?
なぜ、俺には一言も残さずに。
美和子がどこへ行こうと、何をしようと、それは彼女の自由だ。
そんなことは、百も承知している。
けれど——わかっていてもなお、どうしようもなく苛立ってしまう。
彼女のすべてを知っていたい。
彼女の時間も、笑顔も、思考の一部までも、自分のものにしておきたい。
その思いに突き動かされている自分に気づいて、真樹は奥歯をかみしめた。
——俺は、どこまで求めれば気がすむんだ。
手のひらに収まらない愛しさが、同時に彼の理性をじわじわと侵食していた。
「もう少しで終点ね」
美和子は窓の外に広がる風景を眺めながら、充実した一日を振り返っていた。
そのとき、不意に列車が停止した。
「え?」
車内アナウンスが流れる。一本前の列車に不備があり、復旧に約45分かかるという。
「大したことじゃなくてよかったわ」
誰かが怪我をしたわけでもない。遅れるのは仕方ないと、気持ちを切り替える。
そうだ、そろそろ携帯の電源を入れておこう。佳奈から連絡があるかもしれないし。
電源を入れると、画面に次々と着信とメッセージの通知が表示された。
「えっ……?」
目を見張るほどの数だった。
佳奈からのメッセージは一件だけ。
——それ以外は、すべて真樹から。
いったい何事?
心配になって、すぐに佳奈に電話をかける。
「もしもし、お母さん? 無事なのね、よかった!」
電話口の佳奈は、ほっとした声だった。
「お母さん、たまに携帯の電源切ることあるから、私はそんなに心配してなかったんだけど……」
少し苦笑交じりに言う。
「でもね、真樹さんの心配ぶりがすごくて! 妄想どころか、完全にパニック一歩手前だったよ。
“もし美和子に何かあったらどうすればいいんだ!”って。焦りすぎて、ちょっと笑いそうになった」
「……お父さんのお墓参りに行ってたの? うんうん……えっ、私の好きなあれ、買ってきてくれたの? うれしい〜ありがとう!
え?颯真くんの分も? ありがと、伝えとくね! 今度うちで一緒に食べようね!」
一気にまくしたてる佳奈に、思わず笑みがこぼれる。
「……あ、お母さん。とにかく真樹さんにすぐ連絡してあげて! ほんと、倒れそうなくらい心配してたから!」
「じゃあ、またね!」
明るい声を残して、電話は切れた。
美和子は小さく息を吐き、今度は、彼のために、真っ先にメッセージを打ち始めた。
仕事を終えるや否や、すぐに美和子にメッセージを送った。
——「今日はどう?一緒にランチでも」
しかし、待てども返事が来ない。三十分経っても既読すらつかない。
胸の奥がざわつきはじめる。
何かあったのか?まだ寝ている?それとも……昨日の寝方が悪くて体調を崩したのかもしれない。
いてもたってもいられず、美和子の部屋へ向かい、チャイムを鳴らす。
——沈黙。
何の応答もない。
不安が膨らむ。念のために電話をかけてみるが、「電源が入っていないか、圏外です」と機械的な音声が返ってくるだけだった。
エントランスへ向かい、近くにいたコンシェルジュに声をかけた。
「あの、佐藤美和子さんを見かけませんでしたか?」
何度も美和子と一緒に出かける二人を見てきた彼は、にこやかに答える。
「ええ、数時間前に。いつも通りにご挨拶されて、元気そうでしたよ」
その一言で、真樹の中の不安がふっと和らぐ。——少なくとも、体調は悪くないらしい。
けれど、次の瞬間、別の感情が胸の内から顔を出した。
——なぜ、何も言わずに出かけた?
なぜ、俺には一言も残さずに。
美和子がどこへ行こうと、何をしようと、それは彼女の自由だ。
そんなことは、百も承知している。
けれど——わかっていてもなお、どうしようもなく苛立ってしまう。
彼女のすべてを知っていたい。
彼女の時間も、笑顔も、思考の一部までも、自分のものにしておきたい。
その思いに突き動かされている自分に気づいて、真樹は奥歯をかみしめた。
——俺は、どこまで求めれば気がすむんだ。
手のひらに収まらない愛しさが、同時に彼の理性をじわじわと侵食していた。
「もう少しで終点ね」
美和子は窓の外に広がる風景を眺めながら、充実した一日を振り返っていた。
そのとき、不意に列車が停止した。
「え?」
車内アナウンスが流れる。一本前の列車に不備があり、復旧に約45分かかるという。
「大したことじゃなくてよかったわ」
誰かが怪我をしたわけでもない。遅れるのは仕方ないと、気持ちを切り替える。
そうだ、そろそろ携帯の電源を入れておこう。佳奈から連絡があるかもしれないし。
電源を入れると、画面に次々と着信とメッセージの通知が表示された。
「えっ……?」
目を見張るほどの数だった。
佳奈からのメッセージは一件だけ。
——それ以外は、すべて真樹から。
いったい何事?
心配になって、すぐに佳奈に電話をかける。
「もしもし、お母さん? 無事なのね、よかった!」
電話口の佳奈は、ほっとした声だった。
「お母さん、たまに携帯の電源切ることあるから、私はそんなに心配してなかったんだけど……」
少し苦笑交じりに言う。
「でもね、真樹さんの心配ぶりがすごくて! 妄想どころか、完全にパニック一歩手前だったよ。
“もし美和子に何かあったらどうすればいいんだ!”って。焦りすぎて、ちょっと笑いそうになった」
「……お父さんのお墓参りに行ってたの? うんうん……えっ、私の好きなあれ、買ってきてくれたの? うれしい〜ありがとう!
え?颯真くんの分も? ありがと、伝えとくね! 今度うちで一緒に食べようね!」
一気にまくしたてる佳奈に、思わず笑みがこぼれる。
「……あ、お母さん。とにかく真樹さんにすぐ連絡してあげて! ほんと、倒れそうなくらい心配してたから!」
「じゃあ、またね!」
明るい声を残して、電話は切れた。
美和子は小さく息を吐き、今度は、彼のために、真っ先にメッセージを打ち始めた。