25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
改札口に目を凝らしていた真樹は、列車から降りてくる美和子の姿を見つけた瞬間、思わず声を上げた。

「美和子!」

名前を呼ばれて顔を上げた美和子は、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに歩き出す。
その顔には、どこか困惑の色が浮かんでいた。

――ああ、無事でよかった。

真樹は心の底から安堵した。

「大丈夫か?……心配したんだ」

「……迎えに来てくださってありがとうございます」

そう言った美和子の声は、どこか遠慮がちだった。
真樹は黙って彼女の手から荷物を取り上げ、もう片方の手で彼女の手をしっかりと握った。
そしてそのまま、言葉もなくタクシー乗り場へと向かった。

車内でも、ふたりの手は離れなかった。
しかし、言葉はなかった。
美和子もなぜか何も言ってはいけない気がして、窓の外を眺めていた。

マンションに着くと、真樹がエントランスでエレベーターのボタンを押す。
その間も、手は握られたままだった。

5階に到着し、美和子が自宅の鍵を差し込もうとすると、真樹はその背後でじっと立ち尽くしていた。
鍵が回り、玄関のドアが開いた瞬間。

「――っ!」

振り返った瞬間、美和子は真樹にぐっと抱き寄せられた。
その腕には、怒りと悲しみ、そしてどうしようもない安堵が滲んでいた。

「……どれだけ、心配したと思ってるんだ」

低く押し殺した声が、耳元で震えた。

「……ごめんなさい。ちょっと……静かに過ごしたかったの
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