花嵐―はなあらし―
「はい、どうぞ。オムライスですよぉ。」
「ありがとう!」
修ちゃんはオボンに乗ったオムライスをわたしの前に置くと、再びわたしの隣の椅子に腰を掛けた。
わたしは「頂きまーす。」と言うと、スプーンを手に取り、一口サイズにオムライスを掬い上げた。
「今日は元気そうだな。何か良い事でもあった?」
わたしがオムライスを口へと運び、頬張るのと同時に修ちゃんがそう言った。
わたしは口元を手で隠しながら「え、何で?」と訊いた。
「いつもなら、失恋したあとは数日引き摺るからさ。でも、今回は元気そうだから、何か良い事でもあったのかと思って、訊いてみただけ。」
「良い事?特にないよ。」
わたしはそう答えたが、本当は十和に会える事が嬉しくて、勝手にフラれた失恋のかすり傷なんて等に癒えていた。
でも、修ちゃんには何故か言えなかった。
今日、十和に会う事が嬉しいだなんて、、、
何で隠す必要があるのか分からないけど、修ちゃんに言う事を躊躇している自分がいた。
「まぁ、涼花が元気なら何でも良いけど。また変な男に捕まるなよ?」
そう言って豚カツ定食を食べ進める修ちゃん。
わたしは「はい、気を付けます。」と答えると、カフェラテを飲み、それからオムライスを食べ進めていった。
そして、お昼休憩はあっという間に終わり、修ちゃんは13階の秘書課へ、わたしは12階の販促課の事務所へとそれぞれ戻った。
それから午後も溜め込んでいた業務の続きをして、全ての業務を終えたと同時に定時を迎えた。
わたしは事務所の壁掛け時計を見て「6時かぁ。」と呟き、帰る支度をした。
次々と帰ってゆく社員たちに混ざり、わたしもエレベーターで1階へと下りて、会社の外へと出る。
18時でもまだ明るい空は、ゆっくりとオレンジ色に染まっていき、わたしはじんわりと残る昼間の暑さを肌で感じながら、いつもと違う道を歩き始めた。
ちょっと早いけど、買い物をしてから十和の家に行こう。
そう思い、十和の家へと向かい、その途中にあるスーパーで買い物を済ませた。
今日は豚の生姜焼きと、卵と玉ねぎの味噌汁を作ろう。
特に料理が得意なわけでも、好きなわけでもないけれど、何故かこれから十和の為に料理をする事が楽しみで仕方なかった。
このウキウキ感は何だろう。
自分でも分からないこの感情を胸に抱いたまま、わたしは手にレジ袋を下げてゆっくりと十和の家へと向かった。