花嵐―はなあらし―

十和の家は、わたしの家から距離があり、桜並木がある公園近くのマンションの7階だ。

十和のマンションには一階の入口にオートロックがついており、わたしはオートロックがついて開かない扉の横で十和を待つことにした。

スマホで時間を確認すると、時刻は19時38分。

あと20分くらい待てば、十和が帰って来る。

わたしはすっかり暗くなった夜空をマンションの玄関ドア越しに見上げて、十和の帰りを待った。

そして、時刻が20時になる1分前、息を切らした十和がドアのガラス越しに見えて、その片手には飲み物が入っているのであろうレジ袋が下がっていた。

「お待たせ!ごめんな、待った?」

全然遅刻などしていないのに、急いで来てくれたんだろうなぁと思える十和の姿にわたしは心がホッと温かくなるのを感じた。

「ううん、大丈夫。」
「本当?いやぁ、案の定、飲みに誘われてさ。断ったら、"彼女でも出来たのか?"って言われたから、"そうです。"って答えといた!」

そう言って笑いながら、十和はオートロックの扉を鍵で開け、扉が自動で開いた。

「え〜、彼女?彼女なんて居るって言ったら、怒られたりしないの?」
「大丈夫だよ。彼女に会いに行くって言った方がすんなり飲み会断れるし。って、そんな事言ったら涼花に迷惑かかるか。」

そう話しながら開いた扉を潜り、エレベーターを待つ。

わたしは「別にわたしは迷惑なんかじゃないよ?」と言い、横に並ぶ十和を見上げた。

すると、十和は「そんな事言ったら、俺、本気にしちゃうじゃん。」と言い、少し照れたようにハハッと笑った。

本気にしちゃう?何を?

そうしていると、エレベーターが下りて来て、わたしは十和に続いてエレベーターに乗り、7階まで上がった。

わたしたちは7階でエレベーターから降りると、十和の自宅である702号室へと向かい、ドアを開けながら「はい、どうぞ。」とわたしを促してくれる十和と共に「お邪魔しまーす。」と言いながら、わたしは久しぶりに訪れる十和の家へと入った。

「はぁ、腹減ったぁ。飯、何にするの?」
「今日はね、豚の生姜焼きと味噌汁作るよ。」
「おぉ、いいねぇ!涼花の作る飯食べるの久々だなぁ。」

そう言いながら、十和は冷蔵庫を開け、買って来た飲み物を入れてゆく。

わたしはキッチンで買って来た食材を出しながら、「まずはご飯炊かなきゃだね。」と言って、炊飯器から釜を取り出した。

「あ、米炊くのは俺がやるよ。」
「いいの?ありがとう。」
「涼花の飯、楽しみだなぁ〜!」
「そんな楽しみにされる程の料理じゃないけどね。」
「そんな事ないよ。俺、最近はコンビニ弁当ばっかりだったから、手作り料理はめっちゃ嬉しい!」

十和はそう言うと嬉しそうに微笑んで、2合分のお米を釜に入れるとお米を研ぎ始めた。

その間にわたしは先に味噌汁を作ろうと、玉ねぎを切り始める。

さっき十和が冗談で"彼女"発言していたけれど、これじゃあ、同棲してるカップルみたいだ。

でも相手が十和なら、そう思われてもいいかも。
なんて、思ってみたり。

そう思うと何だか意識してしまって、わたしの横でお米を研いでいる十和と一緒にキッチンに並んで立っている事に少し照れてしまった。

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