花嵐―はなあらし―
「ねぇ、修ちゃ〜ん!」
わたしは、自分が働く神成HD(ホールディングス)の同僚で2歳年下の磯田修一、愛称"修ちゃん"の家に駆け込み、修ちゃんに泣きついた。
修ちゃんは「またか」とでも言いたそうな顔で「何?どうしたの?」と言い、わたしの頭を撫でた。
「何か勝手にフラれたぁ!告白したわけじゃないのに、一方的に"俺、胸デカい人がタイプだからごめん"って!貧乳で悪かったなぁ!」
悲しみと怒りが混じった口調でそう言い、涙を流すわたしに修ちゃんは「所詮、それまでの男だったんだよ。最低な男だって、早めに気付けて良かったじゃん。」と言った。
わたしは修ちゃんの言葉に「そうかもしれないけど、、、」と言いつつも、何だか納得がいかず、コンプレックスである"胸"を理由に一方的にフラれた事にかなり傷付いていた。
「やっぱり男の人って皆、巨乳が好きなものなの?」
「ん〜、人に寄るんじゃない?俺は胸よりケツ派だから、よく分かんないけど。」
「ケツ派、、、。」
「どっちにしても、胸で判断するような奴は碌でも無い男なんだから、やめとけよ。」
修ちゃんはそう言って、テーブルの上に置いてある箱ティッシュから数枚のティッシュを引き抜き、涙に濡れたわたしの頬を拭ってくれた。
「ほら、せっかくのべっぴんが台無しだよ。そんな男のことなんて忘れろ。」
「うん、、、」
「こんな時は、飲むのが一番だな。ビールとチューハイどっちがいい?」
「ビール!」
わたしがそう言うと、修ちゃんは「はい、ビールね。」と言い、ワンルームで小さなキッチンのすぐ側に置いてある冷蔵庫を開け、中から缶ビールを2本取り出した。
そしてその内の1缶をわたしに差し出し、「ほら、飲んで忘れよ。飲んで愚痴って、気が済むまで付き合うからさ。」と言ってくれた。
わたしは修ちゃんが差し出した冷えた缶ビールを受け取ると、プルタブを引き、グビッとビールを喉に流し込んだ。
「ぷぁ〜!はぁ、やっぱりビールは美味しいと思えないなぁ。」
「ははっ。まだまだお子ちゃまだな。」
そう言う修ちゃんは飲み慣れた缶ビールを飲んで、ビールが苦手で渋い顔をするわたしを見て笑った。
そんな修ちゃんはわたしより年下なのに、なぜか落ち着きがあって頼りになって、人間関係が苦手なわたしでも心を許せる大切な存在だ。
左耳にピアスをして、茶色い髪の毛に色白の澄んだ肌で美形の修ちゃんは、普段は口数が少なく、目立つようなことをしなくても目立ってしまうくらいのオーラを放っていた。
だから、社内では修ちゃんのファンも多くて、女に困らないくらいの声が掛かっているのだが、修ちゃんはわたしの知る限りでは誰のことも相手にしていなかった。