花嵐―はなあらし―
そして、ビールを何とか1缶空けたわたしだが、飲み慣れていないビールのおかげですっかり酔ってしまい、次はチューハイに変更した。
飲み慣れたチューハイは、ジュースも同然でついつい飲むペースが早くなってしまう。
わたしはテーブルにもたれ掛かりながら、クールな表情でビールを飲み続ける修ちゃんを虚ろに見つめた。
「ねぇ、何で修ちゃんは彼女つくらないの?」
わたしがそう訊くと、修ちゃんは「面倒だから。」と即答した。
「面倒?」
「んー、正確に言えば、好きだと思える人がいないから、かな。好きでもない人と付き合うのは、面倒だから。」
「はぁ、、、モテ男の言う事は違うなぁ〜。さすが、秘書課の王子。」
わたしがそう言うと、修ちゃんは「秘書課の王子?何それ。」と静かに笑った。
「知らないのぉ?修ちゃん、社内で"秘書課の王子"って呼ばれてるんだよ?」
「俺のどこが王子なんだよ。」
「修ちゃん美形だし、めちゃくちゃモテてるからだよ。」
「俺なんてただの一般市民だよ。俺が王子なら、新社長はどうなるんだよ。」
修ちゃんの言葉に「新社長?」と問うわたし。
すると修ちゃんは「あぁ、秘書課以外には、まだ知らされてなかったよな。」と言い、続けて「近い内に発表されると思うけど、今の社長が会長になって、社長の息子の神成創さんが新社長になるんだよ。」と言った。
「えっ!そうなの?!」
「うん。まだ28歳なのに、社長に就任って凄いよなぁ。一度だけ会ったことあるけど、めちゃくちゃイケメンだったよ。あの感じだと、多くの女性を泣かせてきてるんだろうなぁ。」
そう言い、ビールを飲む修ちゃんにわたしは「女を泣かせてきてるなら、わたしの敵じゃん!」と言い、その言葉に修ちゃんは「いや、俺のただの憶測だから。」と笑った。
「でも、修ちゃんがイケメンって言うくらいなんだから、本当にイケメンなんだろうね。」
「何?新社長、狙うの?」
「んなわけないでしょ!その前にわたしなんかが"社長"という生き物に相手にしてもらえるわけないし。女泣かせの人なら、わたしの敵だし。そうゆう人は、絶対巨乳好きだよ!女泣かせの巨乳好きなんかが新社長だなんてー!」
「いやいや、それは涼花の勝手な妄想だろ。」
わたしの勝手な妄想に呆れてハハッと笑う修ちゃんは、空になった缶をテーブルに置くと冷蔵庫に手を伸ばし、開けて中を覗き込んだ。
「あ、もうビール無いや。」
呟くようにそう言う修ちゃんは、背もたれにしていたベッドの上にあったスマホを手に取り、操作をしてから耳にあてた。
「あ、もしもし?十和さん?もう練習終わった?」
修ちゃんが電話をかけた相手は、わたしの中学の時からの幼馴染で、偶然にも修ちゃんの高校時代の先輩だった柊木十和だ。
十和は、そこそこ名の知れたインディーズバンド"Novel"のベーシストで、ファンもつく程の人気があり、バンド活動で忙しい毎日を送っているらしい。
中学の時からベースを弾いている姿を見てきたけど、まさかここまでになるとは思ってもいなかった。