花嵐―はなあらし―
「今日も俺んち来るつもりだったでしょ?今、涼花と宅飲みしてるんだけど、ビール無くなっちゃったから、買って来てくれない?」
先輩をパシリに使う修ちゃんの言葉にクスッと笑うわたし。
修ちゃんは「じゃあ、よろしく。」と言って、電話を終わらせた。
「十和さん、練習終わって今こっち来る途中だったみたい。」
「そうなんだ。それにしても、後輩が先輩をパシリに使うなんて、笑っちゃったよ。」
「だって十和さん、自分の家いらないんじゃないかってくらい、うちに来るんだもん。ビールの買い出し頼むくらい良いじゃん?」
「そんなに来てるの?それなら、もう十和が彼女みたいなもんじゃん!」
そう言ってわたしが笑うと、修ちゃんは「俺ストレートだから、十和さんがいくら格好いいからって、そんな趣味ないよ。まぁ、それで涼花が笑ってくれたなら良かったけど。」と言い、優しく微笑んだ。
修ちゃんの言葉で気付いたけど、わたし、笑えてる。
さっきまであんなに泣いてたのに。
やっぱり修ちゃんと居ると落ち着くなぁ。
人と関わることが苦手なわたしは、子どもの頃から気の合う女子が居なくて孤立することが多かった。
そんなわたしに中学の時、声を掛けてきたのが十和だった。
「俺、友達とバンド組んでるんだけど、見に来ない?」
それから、わたしは何となく十和が組んでいるバンドの演奏を聴きに行くようになり、十和と仲良くなっていった。
別に特別音楽が好きだったわけでも、バンドに興味があったわけでもない。
でも何故か不思議と十和と一緒に居ることで気持ちが安らぎ、居心地が良くて、当時のわたしは十和と過ごす時間を増やしたかったのかもしれない。
家はもう自分の居場所ではなくなっていたから、あの頃、寂しかったわたしにとって、十和は救いの存在だった。
正直あの頃、十和が声を掛けてくれなければ、今わたしはここに居なかったかもしれない。
そのくらい寂しくて、優しさやぬくもりを欲していて、自分が存在する意味を見出せていなかったのだ。
そうゆう意味では修ちゃんも同様、社内で孤立するわたしに声を掛けてくれて、会社の親睦会の時に偶然席が隣で、色々話していく内に打ち解けていき、今に至る。
寂しかったわたしに優しさをくれた十和と修ちゃん。
そんな二人が今、一緒に居て落ち着く、わたしの心の拠り所になっているのだった。