花嵐―はなあらし―
そして、十和と修ちゃんのおかげで一方的にフラれた心のかすり傷は紛れたが、胸へのコンプレックスは消えないまま。
ビール1缶にチューハイを2本空けたわたしは、もう眠さも限界にきて、修ちゃんにタクシーを呼んでもらった。
「じゃあ、また明日、会社でね!」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ!」
お酒が弱い十和は缶ビールを2本空け、既に修ちゃんのベッドで眠っており、修ちゃんだけがわたしのお見送りをしてくれた。
タクシーに乗り、修ちゃんに手を振って、自宅へと帰宅するわたし。
5階建てのマンションの3階に住むわたしは、エレベーターで3階まで上がり、305号室へと向かった。
バッグの内ポケットに手を突っ込み、手探りで鍵を掴むと、眠気と戦いながら鍵を開け、ドアを引いて玄関へと入る。
「はぁ、疲れたぁ、、、眠い。」
そう独り言を呟きながら、わたしは玄関でパンプスを脱いで、居間へと続く短い廊下に寝そべった。
お風呂入るの面倒くさい、シャワーですら面倒くさい、、、
でも、シャワーくらいは浴びよう。
化粧も落とさなきゃ。
重い身体にお酒のせいでクラッとくる頭を何とか上げると、わたしは何とかお風呂場まで辿り着き、シャワーを浴びた。
シャワーを浴びると、少しだけ酔いが覚めた気がした。
明日も仕事かぁ、、、疲れたなぁ。
まだ週の真ん中で、休みがずっと先に思える。
そういえば、新社長って、どんな人なんだろう。
修ちゃんは"イケメン"だって言ってたよね。
あの修ちゃんが"イケメン"と言うくらいなんだから、きっと素敵な人なんだろうなぁ。
まぁ、中身は分からないけど、、、
そんな事を考えながらドライヤーで髪を乾かし、スキンケアをしてからベッドへと潜り込む。
それから目を閉じると、わたしはすぐに眠りについた。
わたしはよく夢をみる。
今日の夢は、何故かわたしと十和が手を繋いで歩いている夢だった。
そういえば中学の時、わたしが同じクラスの女子に陰口を、いや、わざと聞こえるように悪口を言われ落ち込んでいたら、放課後に十和が「一緒に帰ろう。」と言って、わたしの手を引きながら一緒に帰ってくれた事があったっけ。
まだまだ手を繋ぐ事が恥ずかしい時期だったにも関わらず、十和は周りの視線を気にせずに、手を繋ぎ歩いてくれた。
嬉しかった。
わたしは一人じゃないと思えた。
十和の手は、温かかった。
十和は当時からバンドを組んでベースを弾いていて目立っていたし、校内で一番と言っていい程モテていた為、手を繋ぎ歩いている姿を目撃した人たちは「柊木と月島って、付き合ってるの?!」と騒ぎ立てていた。
しかし、そんな騒ぎに十和は全く動じなくて、「俺は、付き合ってると思われてもいいから。」と優しく微笑んでいた。
普通だったら、そんなに騒がれれば距離を置いてもおかしくないはずなのに、十和はいつでも、どんな時でも変わらず、優しくわたしに接してくれた。
今でも忘れられない、十和の手のぬくもり。
落ち込んでいたからあの頃を思い出して、それが夢に反映されたのかな。
そして目が覚めてからも不思議と残る、十和の手のぬくもりにわたしは自分の掌を見つめた。
まるで今、本当に手を繋いだあとのように感じた。