花嵐―はなあらし―

「んー、眠い、、、」

二日酔いまではいかないが身体や頭は重く、瞼が開き切らないままわたしは仕事へ出掛ける準備をして、自宅を出た。

電車通勤のわたしは最寄り駅まで歩くと、改札を入って、すぐにやって来た電車に乗った。

電車の中は満員で、座れることなんてゼロに近い。

わたしは電車に揺られながら、必死に手摺りに掴まり、サラリーマンたちに挟まれていた。

すると、「そういえばさ、Novelの3rdシングル発売決まったの知ってる?」と言う声が耳に入ってきて、わたしは反射的にその声がした方を向いた。

向いた先には女子高生が居て「知ってる!Novelいいよね〜!」「ねっ!あたし、ヒロ推し!」「あぁ、確かにヒロも格好いいけど、うちはトワ推しかなぁ〜!」という会話にわたしは少し寂しくなった。

3rdシングルが出るなんて、知らなかった。

"トワ推し"かぁ、、、

何だか、十和が遠い存在に感じてしまう。

わたしの方が何年も前から十和を知ってるはずなのに、わたしの知らないことを見ず知らずの他人が知っているなんて、少し嫉妬してしまった。

でも、十和がインディーズデビューしてから、いつの間にかわたしの知らない十和が増えているのかもしれない。

忙しそうだから、会う事も減っちゃったしなぁ、、、

昨日、もっと十和の近況を聞いておけば良かった。

わたしの話ばかりで、十和の話なんて全く聞けなかったし、久しぶりに会ったからって、いつでも会える感覚でいたから何の特別感もなかったけど、もういつでも会える存在じゃなくなっちゃったんだよね。

次はいつ会えるだろう。

次会えた時は、十和の話をたくさん聞こう。

桜が散る今時期だったなぁ、、、
初めて十和が話し掛けてくれたのは。

そんなことを考えながら、わたしは電車に揺られ、3駅先で人をかき分けながら何とか降り、駅前にある会社へと出勤した。

「おはようございます。」

そう挨拶をしながら12階フロアにある販促課の事務所に入ると、何やらいつもと違う雰囲気にわたしはすぐに気付いた。

「新社長の就任式、来週あるらしいよ。」
「そうらしいね。新社長、かなりのイケメンって話だよ。」
「マジで?早く新社長見てみたいー!」

周りの人の会話から、修ちゃんの言っていた事を思い出す。

そういえば、修ちゃんが言ってたなぁ。
今の社長の息子さんが新社長に就任するって。

来週、就任式あるんだ。

やっぱり新社長って、イケメンなんだね。

そう思いながら自分のデスクにつくと、まずは社内メールを確認した。

すると、さっき耳にした"新社長就任式のお知らせ"というタイトルのメールが秘書課から届いており、来週の金曜日に某ホテルを貸し切って就任式が行われる事が書かれていた。

< 8 / 14 >

この作品をシェア

pagetop